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第5話 なんにも持ってない
母が児童相談所に秀治を連れて行ったのは中学を卒業する二週間前のことだった。厚化粧をして相談員の前で母は泣いてみせた。実の息子からの暴力に困っているのだと、嘘の証言をして。
まもなく秀治は母から引き離され児童相談所の連携する施設で暮らすことになった。そこは問題を抱える子供たちであふれていて、その中で秀治はさらに孤独を感じるようになっていった。
「てめえ邪魔なんだよ。この馬鹿」
「……ごめんなさい」
施設の子供たちには鈍臭くて邪魔だと毎度言われた。彼らは悪くない。自分がとろいから嫌われるのだと信じて疑わなかった。ここは生き地獄で、死ぬことも許されない場所なのだと。
18歳になり施設を卒業することになり、外の世界へ放り出されてからもアルバイトで食い繋ぎなんとか生活していた。飲食店にパチンコ屋、カラオケ定員にコンビニの定員。仕事があるならなんでもやった。どこに行っても自分はお荷物で使えないとクビを切られた。それでも、そんな生活を四年続けてきて秀治の心に張りつめていた糸がぷつりと切れた。もう生きるのをやめようと。もがいて生きるのはやめて、自然に帰ろうと。自殺未遂を繰り返してもう十回ほどになる。死ぬためならどんな痛みにも耐えることができた。秀治の人生は死ぬために生きる日々だった。毎日、どうにか楽になる方法を探しては挫折していた。
あの廃墟のビルを探し当てたのも数ヶ月前だった。人気がなくて、きらきらと光り輝く街が見える場所で最後を飾りたかった。自分には不相応な街のきらめきに見守られていきたかった。
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