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第9話

「別に、それがその人たちの仕事だろ」  やけくそになって言うと、男は秀治の首に手をかけた。軽々と宙に足がぶら下がる。 「かはっ」 「迷惑だとわかっているのか」  ぎりぎりと首元を締め付けられ息ができない。こめかみの血管がびくびくと痙攣し始める。苦しい、けどこのまま死ねるなら。もがいていた腕がだらんと下がった。無抵抗の印に男に笑みを見せてやる。青い瞳と初めて目があった。綺麗な青に吸い込まれそうになる。 「そんなに死にたいなら、今ここで殺してやる」  青い獣はそう秀治の耳元で呟くと、手の力を強めた。だんだんと耳鳴りが強く頭の中で響いていく。その音が途切れるようにして秀治は意識を手放した。 「馬鹿め」  そんな悲痛に満ちた声が聞こえたような気がした。  うまく殺してくれたのだろうか。秀治は堕ちていく意識の中でそんなことを考える。あの男、青い瞳をしていた。綺麗だったな。海もあんな色をしているのだろうか。体が包み込まれるようにあたたかい。このぬくもりはいったいなんなのだろう。ついに体の感覚がおかしくなったのだろうか。ずっとこのぬくいゆりかごに揺られていたい。永遠に、二度と目が覚めないように。こんな世界に二度と生まれ落ちないように。

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