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第11話 噛み癖のある駄犬

「じゃあなんで俺を殺さなかったんだ」 「飼うためだ。俺の知り合いの仕事を手伝ってもらう。拒否は受けつけない」  飼う? 俺のことを犬か猫だと思ってるのか。秀治はサァっと血の気が引くのを感じた。飼うって……嫌な響きだ。まさか、死ぬまでやばい仕事をさせられるとか? 船仕事へ連行されるとか? そんな、嘘だろ。だったら今すぐにでも死んでやる。 「死んでやる。今すぐに!」  舌を突き出して上下の歯で挟む。ぎゅうっと肉を噛む食感が気持ち悪かったが、仕方ない。手を使えないのなら、歯を使うまでだ。ふんと鼻で笑おうと思って降谷の顔を見上げようと思ったとき、青い瞳が目の前にあった。その色は光を帯びずに淡い青空を詰め込めた飴みたいに見える。思わず見とれてその瞳を見つめていると、口元に違和感を覚える。 「んんっ!?」  降谷の唇が秀治の唇と重なっていた。突き出した舌を吸われ、口が開いていく。歯が浮くようで背中がぞわぞわとする。軽く吸い終えると、微かに口端を上げて降谷が囁いた。 「馬鹿には不意打ちが一番効くな。今度また舌を噛もうとしたら、俺の舌をねじ込んで窒息させてやる」 「……っ」  悔しい。キッと下から睨むが効果は薄いようだ。 「先に言っておくが親というのが気に食わないなら俺を主人だと思えばいい。お前は昨日俺が拾った野犬だ。よって保護に値するかどうかは今後のお前の働きによる。まあ逃げようとしても無駄だろう。お前にはどこにも行き場がないようだから」 「っな!」  降谷に言いくるめられた秀治は抵抗する間もなく、そのまま無理矢理朝食の目玉焼きとパンを口に詰め込まれて、外に連れ出された。朝日が眩しくて顔を歪めていると、陽の光に反射して降谷のアッシュグレーの短髪がきらめいていた。  車の助手席に詰め込まれて流れていく街中の景色を眺めていると、急に車が止まった。重力に逆らえず体がシートに沈む。

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