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第29話 R18

「あっ……ん」  想像よりももっと高い声でクインが鳴いている。友人のそういう姿を盗み聞きするのは良心が痛むので、そっと耳を両手で塞ぐ。アレンは苦笑いを浮かべながら秀治を見ていた。 「アレン」  と、厨房の横からアレンを呼ぶ太い声が聞こえてピクリと肩を揺らす。 「なんだ、ここにいたのか。今日はエプロンなんかつけやがって……って、もうヤってんのか」  嘘だろ──。秀治は慌ててアレンを仰ぎ見る。アレンはゆったりと体を上げると男の方へ歩いていった。その距離二メートル弱。そんな、すぐそばで見ることなんてできない……。 「|拓馬《たくま》さん……。ごめんなさい。拓馬さん来るの遅いから、同じキャスト同士で軽く遊んでて」 「へぇ。どんな奴? こっちに顔見せろよ」  明らかに自分に話しかけている拓馬という男に秀治は顔を背けた。体ごと体育座りをして後ろを向く。 「なんだ照れ屋なのか。心配するな、気持ちいいことしかしない」  拓馬さん、とアレンが引き止める声を無視して拓馬と呼ばれた男は秀治の腕を掴む。 「……っ」  目が合ってしまった。野性の獣のような鋭い瞳。どこかで見たことがあると思えば、降谷の目とどことなく似ている。他者を押さえつける目。そんな印象を持った。 「俺、違くて……」  その熱い眼差しに耐えかねて白状するように口を開こうとすると拓馬に唇を奪われた。 「……ん……っ」  肉厚な舌が驚いて開いてしまった口内を蹂躙する。目を丸くしてそれを受け身になって耐えていると、黒い鉱石のような瞳と目があった。真っ黒なその瞳に溺れてしまいそうになる。

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