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第176話 嵐の前触れ (side ??)

「へぇ。あいつそんなことしてるんだ」  スピーカー状態にしたスマホに声をかけながら、男はワインを飲んでいた。高層マンションの上層階。ニューヨークの街を一望できる一室は億を超える契約金だった。白い光に包まれるニューヨークの夜景を眺めながら、一枚の写真を見つめる。指で軽く写真に映る男を撫でた。そして、捻り潰すように写真をくしゃくしゃに丸める。何度も何度もそうされてきた写真はところどころ白い線が入っている。それを丁寧に押し広げて額縁に入れた。戦地から帰国した弟と一緒に撮った最初で最後の写真。家族写真を撮ることも初めてだった。老いつつある両親のために無理を言ってカメラマンに撮らせたものだった。 「すぐに会いに行くよ。蓮」  ──おまえの大事なものを奪いにね。 【第二部 了】

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