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第175話

「降谷くんが連れと一緒に来るのは初めてだなぁ」  本当だったんだ。そう思って特別扱いをされているようで嫌な気はしない。ちびちびを緑茶を啜っていると降谷が戻ってきた。残りの寿司を大きな口で飲み込むと、すぐに会計をする。 「ごちそうさま……」  車内でそうお礼を伝えると、鼻で笑って満足そうな顔をしていた。感情を表に出すことが珍しい降谷のそんな一面を見て不覚にも嬉しいと思ってしまいそうになった。 「皆心配している。このまま店に連れてくが働けるか」 「うん。大丈夫」  お昼ご飯も食べたし、唯斗の件は気持ちが吹っ切れたので働くことに支障はないだろうと思う。それに、久しぶりに厨房で愛用している調理道具の手入れもしてやりたかった。  店の前で車を停めてくれたので静かに出る。 「ほんとうによかった。おまえのことが心配だった」 「あ、うん……ありがとう」  出るギリギリにそう言われて、なんと反応していいかに迷いとりあえずお礼を言った。そのまま店の前に取り残された秀治は車が見えなくなるまで見送っていた。ほんとうに心配してくれていたんだなというのがわかって、胸が詰まる。従業員通路を通って厨房に向かうと仕込みをしているダグと鉢合わせした。 「シュウっ!」 「うわっ」  巨体が覆い被さるように秀治に抱きつく。分厚い胸板に頬を押し込まれて少し苦しい。 「よかった。ほんとに。怪我してない? 体調は?」  肩に手を置かれじろじろと観察される。「大丈夫」と笑って言うと安心したのかダグは深呼吸をした。  そのままダグに休んでもいいと言われても業務にあたった。クインとアレンもやってきて揉みくちゃに抱きつかれ秀治はへとへとだった。深い理由を聞いてくることはないが、なんとなく秀治に何があったのかわかったらしく何も聞いてこなかった。それが救いだった。

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