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第178話

 シャイニングムーンで働くようになってから一年が過ぎた頃。秀治は相変わらず厨房一筋で働いていた。ストリッパーになりたい気持ちは薄れていき、今は料理人として成長したいと考えていた。 「シュウ! オーダーよろしく」 「了解」  クインのとってきた注文を確認しながら、素早く調理を始める。その働きぶりにダグも大喜びでたまに一人で店を回すこともあるくらいだった。それを秀治自身誇らしいと思っていたし、それと同時に責任も感じるようになっていた。  いつものようにクイン、アレンと秀治の三人で店から寮のアパートに戻っていると、一人の男が車に腰掛けて待っているのが見えた。仄暗い蛍光灯の灯りに照らされてその男の周りだけ影が濃くなる。不審に思いつつも、寮の入り口はそこを通らなければならないので三人で駄弁りながら向かう。 「見つけた。秀治くんだっけ?」  不意に男に声をかけられてしどろもどろになる。男は銀色の丸眼鏡をかけて、秀治を見下ろしてくる。背の高さに驚いて声を出せないでいると、男はそっと秀治の耳筋に指を添わしてきた。ぶるりと鳥肌が立つ。 「すみません。シュウの知り合いですか?」  アレンの大人の対応で男はさっと身を引く。眼鏡をくいっと上げてにやりと笑った。口の隙間から見える犬歯が男をミステリアスにさせる。クインはアレンの後ろから顔を覗かせている。おそらく怖くて隠れているのだろう。 「今は違うけど、これから知り合いになる予定」  つばの広い黒いハットを傾けると、スマホを取り出してどこかに電話をかけ始めた。その様子を見守っていると、その電話を秀治が受けるように指示される。乗り気ではないが断れそうもないので渋々「もしもし」と声をかけると電話口で舌打ちの音が聞こえた。すると、聞き慣れた声が耳に入ってくる。 「なにしてる」 「えっ、降谷!?」

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