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第179話
向こうで大きなため息をついているのが聞こえた。スマホを片手に男を見やると「ほらね」と笑顔で返された。何が起きているのか理解できない。
「蓮。久しぶり。お兄ちゃんの連絡を無視するなんて酷いな」
秀治から抜き取ったスマホでけらけらと笑いながら男は言う。プツンと電話が切れたらしく、ツー、ツー、という音がスマホから聞こえてきた。
「僕は蓮の兄の降谷翠 。これからたびたび君に会いに行くからよろしくね」
そう言い終えると颯爽と車で走り去っていく。ぽかんとしていると、クインに体ごと引きずられていく。
「なになに? あのイケメン。またシュウ目当てなの?」
詳しく教えてと言わんばかりにソファの上で迫ってくる。秀治はじたばたと暴れるが、小柄だが力のあるクインからは逃れられない。
「知らないっ。初対面だ」
「蓮さんにお兄さんなんていたんだね」
アレンはお湯を沸かしながらそう呟く。「あんまり似てないね」と言葉を添えた。たしかに、兄弟っぽくはなかった。共通しているのは背が高いということと、青い瞳をしているということだけ。声も顔も、体つきも違う。
「あっ、シュウ。電話」
テーブルに放っておいたスマホがブブブと震え出したのをクインが見つける。降谷とかかれた画面をタップしてベランダに出る。アレンがクインを羽交い締めにして押さえてくれているうちに電話に出た。
「もしもし」
「無事か」
被せてくるように降谷が聞いてきた。少し焦っているような声に秀治も不安になる。
「まさかあいつが日本に来るなんて」
独り言のように呟く声だけで、降谷が頭を抱えているのがわかる。翠というのは相当癖のある人物らしい。
「絶対にあいつには近づくなよ、秀治」
名前を呼ばれ胸が疼く。最近話していないから声を聞くだけで少し嬉しかった。
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