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第183話

「おまえ動物園なんて行ったことないだろ」 「うん、ない。降谷が行きたい場所って動物園ってほんとか? 俺に気を遣わなくていいよ」  その気持ちだけでありがたかった。すると降谷は意外なことを言い出す。 「俺も子どもの頃にアメリカの動物園に行って以来ない。だから、日本の動物園に興味がある。おまえは嫌か」 「そっか。いいよ。行こう動物園」  本音を言えば、お洒落なカフェもいいが二人きりでゆっくりと過ごせる動物園は最適だと思った。話しながら歩いてもいいし、ベンチに座って話してもいいし。話す機会に恵まれている。それに、本物の動物を見てみたい。 「じゃあ今度の土曜はどうだ」 「うん。その日は定休日だから、一日暇だし」 「わかった。仕事無理するなよ。最近はかなり忙しいと聞いている」 「大丈夫だって。俺も慣れてきたから。降谷も仕事無理するなよ。また倒れられたら困る」  別れの挨拶のつもりだったが、通話が途切れない。どうしようと迷っていると、降谷の笑い声が聞こえてきた。 「おまえ、ほんとに忠犬みたいなやつだな」 「こっちから切るのが苦手なだけだ」 「俺になにか話すことがあるんじゃないのか」  はたと考えて、今朝の失態を思い出し一人赤面する。電話でよかったと安心していると、向こうからとんでもない爆弾が飛んできた。 「たとえば俺で抜いた、とかな」 「っ!」  当たらずも遠からずという言葉はきっと今の状態にぴったりの言葉だろう。秀治はあわあわと口を動かすが、言葉が出ない。否定しなければ図星だと思われてしまう。それは避けたかった。

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