184 / 215
第184話
「そんなことするわけないだろ」
ふんっと余裕げに笑いながら答える。ついでにもう一言言ってやろうと思って口を開いた。
「おまえのほうこそ俺で抜いたりしてるんじゃないのか?」
言い返せたことに満足していると、ふっと鼻で笑うような声が電話口で聞こえてきた。
「たまにおまえがよぎることはある、がそこまでクズじゃない」
「っ……」
じゃあ俺はクズってことなんだ。降谷の一言に撃沈していると、耳元で笑い声が聞こえてくる。やけに機嫌が良さそうだなと思いながら今度こそと別れを切り出す。
「じゃあ土曜日楽しみにしてる」
「ああ。またな」
向こうが切るのを確認してから、ほっと息をついた。降谷との会話は楽しいがすごく消耗する。たくさん話したいし、上手い言い返しもしたい。俺だけじゃなくて、降谷の話も聞きたいからつい力が入ってしまう。今日の予定を確認して、昼間に春服でも買いに行こうかなと思いクインとアレンにメッセージを送ると、クインはオッケーを出してきた。アレンは拓馬と食事に行くらしく、ごめんねと謝るウサギのスタンプを添えてきた。
「シュウからのお誘いなんて珍しいから今日もオシャレ張り切っちゃったよ」
玄関の前で待っていると、黒いデニムパンツに白いワイシャツ、中には黄色のキャミソールを着たクインが舞いながら出てきた。大きなパールのピアスに、小さなリング型のネックレスをつけて準備万端という格好だった。長い髪は後ろでひとまとめにしてある。秀治はと言えば、黒いスキニーに白いパーカーというカジュアルな格好なので、もう少し頑張ればよかったかなと後悔する。
ともだちにシェアしよう!

