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第185話
駅前のショッピングモールでメンズ服を買い漁り、カフェで休憩を取る頃には紙袋で両手が塞がっていた。クインは抹茶オレを、秀治はミルクティーを飲みながら、雑踏の賑わう駅の中心を眺めていた。秀治がトイレに立ち、カフェに戻ろうとした瞬間背後に人の気配を感じて振り返ると、銀縁の丸眼鏡と目が合った。ハットは被っていないが、くすんだ紫色のジャケットを着ている。
「また会ったね。秀治くん」
犬歯を見せつけるようにして微笑みながら肩を掴まれる。蛇に睨まれたように動けなくなった。翠からは爬虫類のような空気がぷんぷんと匂ってくる。人を寄せつけない何かがあった。
「何か用があるんですか」
決して物怖じしないぞと心の中で誓い、すぐにその場から離れられるように両足に力を入れる。それを見ていた翠がけらけらと笑い出した。
「別にどこかに連れ去るとかしないよ。ただ一つ忠告をしてあげたかっただけ」
「何を?」
にやりと眼鏡の奥の細い目が丸くなる。青い瞳が降谷と違って濁っているように見えた。
「弟には気をつけたほうがいい。あいつは飽き性だから。好き勝手されないうちに逃げたほうがいい」
「あなたに何がわかるんですか? ただの兄弟のくせに」
肩を掴む力が強くなる。ぎりぎりと骨を軋むような痛みに秀治は悲鳴を上げた。ぱっと手を離すと、恐ろしいほど冷えた瞳で見下ろされる。
「馬鹿な子がお気に入りだから、蓮はね」
意味深な言葉を残して用は済んだとばかりにその場から翠は立ち去る。壁に背中をつけながら言われた言葉を反芻した。
『馬鹿な子がお気に入り』
その言葉が刻印のように秀治に刻み付けられた。
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