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第186話 動物園デート
「わ、でかい」
土曜日の朝から秀治と降谷は都内の動物園にやってきていた。休日とあって客も多く、目を離したら迷子になってしまいそうだった。目の前でリンゴを食べているゾウを見ながら、降谷を仰ぎ見る。しげしげと見つめているのを横目に、秀治もゾウを見ていた。二頭のゾウは親子らしく、まだ小柄な方のゾウが元気に走り回っていた。
草原の動物ゾーンにはシマウマやカンガルー、キリンやシカなどもいた。アフリカのサバンナをイメージしているらしく、どこもかしこも芝生や木々が生い茂っている。秀治はそれを子どものようにはしゃいで見つめていた。降谷は春の日差しが爛々と差し込む太陽を嫌ってからサングラスをかけている。スタイルの良さは隠し切れていないので、高校生と思しき集団やカップルたちから熱烈な視線を浴びているが本人は全く気にしているそぶりはない。
「ライオンだって。降谷も近くで見ようよ」
人混みが苦手らしい降谷だが、大体の人が道を譲ってくれるのでそこは小さな円ができている。それをいいことに秀治はストレスなく動物を鑑賞することができた。
昼食を取るため園内のレストランに向かう。混み合っていて十分ほど待つらしいが、その間も話ができると思うと嬉しくて空腹なんてすっ飛んでいく。降谷はパタパタと園内マップの冊子で顔を仰いでいる。今日の気温は二十度でかなりあたたかい。秀治もこまめに水分補給をとっていた。
「降谷ってヒョウみたいだよな」
「……それならおまえはモルモットだな」
「食われるほうじゃん」
「間違いはないだろう」
降谷の口端が上がる。もう一度今の会話を頭からなぞって一人顔を赤らめた。
「そういう意味じゃない」
「なんのことだ」
降谷はたびたびこういう意地悪を言ってくる。頭の回転が速いと言えば聞こえはいいが、秀治はそんな降谷に振り回されていていい気分がしない。
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