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第187話

「クインとアレンはどうだ」  ふと、向こうから会話を振ってくれた。それが嬉しくて秀治は真剣に頭を悩ませる。 「クインはキツネで、アレンはクマかな」 「俺もそう思う。ちなみにダグはカバだな」  大きな口を開くカバを思い出してくすりと笑うと、ちょうどウェイトレスに名前を呼ばれた。案内された席に行くと、カワウソのぬいぐるみが机の端に置いてある。 「かわいいな」  思わず口からこぼれてしまった。男がかわいいとか引くかなと思ってカワウソから手を引っ込める。メニューを見ながら降谷の顔をちらちら見ていると、降谷がカワウソのぬいぐるみを鷲掴みにして秀治に渡してきた。 「好きなんだろ。あとで買ってやる」 「い、いいよ。子どもじゃないし」  そう言いながらも秀治はしっかりと握りしめたカワウソの手をにぎにぎとしていると、降谷が軽く笑った。小さな笑顔だが、秀治にとっては貴重なものだった。何度も心のシャッターを押す。ほんとうは写真に撮って毎日眺めたいくらいだと思いながらカワウソの頭を撫でていた。 「お待たせしました。森のカレーと、猛獣パスタです」  動物園らしいネーミングの料理が運び込まれ、秀治は口の中の涎をごくんと飲み込んだ。いただきますと呟き、スプーンで口元まで運んでいく。スパイスの効いたカレーは頬が落ちるほど美味しかった。辛さも絶妙でこれなら子どもでも食べやすいに違いない。猛獣パスタならぬペペロンチーノパスタを食べている降谷を正面から見て、こんな日がくるなんてと今までの日々を振り返る。人生の中で一番長い一年だった。日々、新しいことの連続で新鮮だった。生きていなければ知らなかったことをたくさん学んだ。今は生きていてほんとうによかったと思う。目の前の救世主に感謝したいくらいだった。

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