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第五章 第60話 エピローグ

 木野崎の学校が始まった。  俺は木野崎と一緒ではなく、高牧さんと仕事に行っている。  木野崎は、放課後に俺を家で待ってくれている。  そんな風に毎日が変わった。 「……チェーン、増えてません?」  百瀬がジューっとストローでジュースを飲みながら俺と木野崎を眺める。  百瀬は俺達の部屋に遊びに来ていた。  俺の首には今、3重にチェーンがかかっている。 「……」  俺は無言で、胸元からチェーンを取り出す。  一つは、俺のカラーの鍵。  もう一つは、木野崎のカラーの鍵。  さらに一つには…… 「指輪っすか!?とうとう結婚でもすんのかよ!!チクショー!!マブい!!」  指輪が通してある。  指輪といっても、2万円台の、アクセサリーブランドの中ではプチプラといわれる、高校生のお小遣いを貯めて買えるようなものだ。  俺は働いていたので結婚指輪の一つや二つ買えるのだが、木野崎が買うなら二人で買おうと言って拒否したため、こうなった。  木野崎はマネージャー助手という名の無償労働に身を捧げていたため、お小遣いしか収入源が無かったのだ。  木野崎は左手の薬指に指輪を嵌めたまま、手を百瀬に見せる。 「俺ら、まだ結婚はできないけど……結婚の約束は、ずっと前からしてたから」 「嘘でしょ!?高校生だったのに!?」  百瀬が大仰なリアクションをする。 「俺が大学生になって……いろんなことが変わりました」  木野崎が言う。 「相浦の仕事には付き添えなくなって……俺は、大学で忙しくて。でも家に帰ったら相浦がいる。お互いの巣材集め合うのも、愛情が感じられてすげー幸せで……だから、その気持ちを形にして持っときたいなって思ったんです」  百瀬がハアーと息を吐きながら俺達を見る。 「あー……羨ましー……ねぇ、マジで二人とも、俺の番になる気、無いっすか?」 「今の所は、間に合ってるんで」  答えた俺に木野崎が反応する。 「は?今の所はって、なんだよ。オメーには俺がいんだろが」 「ああああっ!『微妙なすれ違いからの嫉妬し合い結局は想い通じ合ってセックス』のダシにされるッ!俺のいないところでっ!そんなの耐えられない!」  百瀬がのたうち回る。 「でも、マジで……番が必要になった時は、他の誰でもなく、俺選んでくださいね。二人とも丸っと愛せんのなんか、俺ぐらいしかいないっすからね。二人とも、いつか噛んでやりますから。ついでに、二人のこと見守るこのポジションで納得してんのも俺以外じゃあり得ないっすからね」 「百瀬さんには、世話になってると思ってますよ。ありがたいとも」  俺は百瀬に礼を言う。  指輪を買ったのを初めて見せたのは、親でもなく、赤城や涼華やうららでもなく、百瀬だった。  百瀬とは高校時代の5人グループと比べても大分付き合いが浅いが、いい友達だと思っている。  今後も俺達の世界は広がり続けて、木野崎には大学や、その先の就職先での付き合いのある人間が増えて行くだろうし、俺も、芸能人ではうららと百瀬だけが友達……のまま、一生を過ごすわけではないだろう。  それでも俺と木野崎が繋がっていられる、その証。  それがこのリングだ。  俺達の世界がどう広がっても、どう転んでも、俺達が一緒であることの証。  俺達はΩだ。ときにはαの誘惑に勝てなくなることがあるかもしれないし、これから運命の番が現れて、俺達の前に立ちはだかる大きな壁となるかもしれない。ただお互いを好きな気持ちだけでは、αとΩの絶対的な絆……番関係には、敵わない。それでも俺達には、百瀬のようなαの理解者もついている。Ω同士でも二人で生きて行く準備はできている。  二人で一緒にいることを何度も確かめ合って愛を囁く。俺達は、俺達だけを好きなままで生きて行く。  それが俺、相浦琉人と恋人、木野崎光輝の恋愛模様。  そして、これからの人生だからだ。

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