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17.エピローグ

 このあと一旦実家に戻って家族と食事をしてから、日本でお世話になっていた事務所の社長さんと飲みに行くという先輩を送り出し、友成(ともなり)家には俺と(つぐ)さんだけが残った。 「嗣さんと時任先輩って、もしかして昔からこんな感じだったんですか?」 「うん?」  お腹が空いたのか、嗣さんはダイニングで大きなマフィンを齧ってる。 「俺たちも中学くらいの頃から、一緒にオナニーし始めるまではエロとは無関係だったけどな」  得に躊躇う様子もなく答えてくれるけど、オナニーって人とするものだっけ? という認知の歪みを感じる。 「最初は抜き合いみたいなのしてて、一時期フェラしあうのにもハマったけど、ミユより彼女のがフェラ上手かったからな~」  やっぱりこの人は、子どものころから倫理観がおかしいのだろう。そもそも俺は、中学の時なんてまだ彼女すら居なかった! 「もしかして、先輩と嗣さんの初体験の相手とか……」 「俺は近所のお姉さんで童貞卒業したし、ミユは……まあいいか、中学の同級生の兄貴で童貞捨ててたよ? ちなみに、俺のが先~~」  何故かピースしてくる嗣さんだけど、それは割とどっちだって良かった。 「ミユとはずっとセフレ交換とかしてる感じだったし、ナンパしたヤローをマワしたりとか……そんなことばっかしてたな。あ、フツーに健全な遊びもしてたけど! 中高は猿みたいなもんだったし、しょうがないよな~」  いくら猿でも、俺なんかは良識ある猿だったと思う。そりゃオナニー覚えてからは人並みに抜いてたけど、少なくとも高2までは童貞のままだった。中学でセフレなんて、想像したことも無かった! 「それで、結局2人ではシたことないんですか?」  そして俺はようやくその疑問を切り出す。何を? って勿論セックスだけど、2人ともバリタチだって言っていたからその可能性は無意識の内に除外していたんだ。 「ア?」  嗣さんは指先ついたマフィンのクズ舐めとると、 「あ~~……あるよ、うちのにはチクんなよ?」  今度もまたアッサリと白状した! 確かに俺には何となくそれに確信があったのだけれど、誤魔化された時には深く追求するつもり無かったのに、実にアッサリと。 「友成家にもバレちゃダメとかあるんですか!?」  そして奥さんにもバレれてはいけないと言う過去に、追及するつもりはないという思いなどうっかり忘れる。  彼ら夫婦は、一般的な夫婦の形としてはどこか歪に思える、不思議な道徳観で繋がっているから、婚外セックスの相手が例え同性であっても普段なら気にも留めないと聞いている。 「うちの嫁、元々読モ時代のミユにハマってて、先に付き合ってたのアイツらなんだよ。元カレカノってやつ、ミユも元々バイだから」  今度もサラリと告げられる奥さんと時任先輩の過去に、俺は驚いたが、 「うちのは今でもミユのガチファンだから、他の奴はともかく俺とミユが寝たの知られたら――たぶんブチキレられる……俺に嫉妬する――最悪の場合は離婚の危機」  やっぱりその倫理観は、俺の与り知らぬ領域なようだった。 「……複雑ですね」  何と言って良いものか分からず言う俺の中では、嗣さんが先輩の彼女寝取ったの!? という泥沼展開が想像されたが、 「つっても、俺とミユがヤッてたのはミユと嫁が別れた後だったし、付き合ってたとかでもなく半年くらいセフレみたいな状態だっただけだから」  そうだった! この人、先輩ともセックスしてたんだった! と我にかえる。 「……だけ、って。でも時任先輩もバリタチなんですよね?」  そこのところが正直気になる。  どうみても雄みヤバい2人が、どうやってセックスするのか。つまり、結局はどちらかがウケにならなければセックスは完結しない訳で。抜き合いやフェラの話は既に聞いていたから、セックスをしたというのなら挿入までしたのだろう……だからどっちが――? 「ミユが俺とヤリたいって言い出したから、ポジション争いで殴りあいになって、結局決着がつかずにジャンケンで決めた」  何でもないことのように言う嗣さんは、2個目のマフィンに噛みついた。さっきのはプレーンぽかったけど、今度はチョコレート味だろう。 「ハッ!? そこまで苛烈なんですか!?」  しかしそれどころじゃなく驚いたのは、ポジション争うのために殴り合う幼なじみ同士だ。  そこまでしてタチを死守したいのか? という、文字通り雄同士の『マウント』の取り合いと、そこまでしてセックスしたいのか?という困惑は、俺が元々ノンケだから分からないものなのだろうか? 「俺、幼なじみにだってケツ貸すつもりなかったし。でも、ジャンケンって言い出した時点で、ミユが俺に抱かれようとしてんの分かったし」  嗣さんの大きな口の中、マフィンはあっという間に無くなってく。 「でも、ジャンケンですよね? 負けてたら……」  確立としては半々だったのでは? と首を傾げた俺に、 「俺、生まれてこのかた一度もジャンケン負けたことねーんだよ、当然ミユもそれ知ってたし」 「ジャンケン負けたことない、ってそんなことあり得るんですか!?」  そんな人聞いたことない! って驚きのまま尋ねると、 「あるよ、常勝無敗」  嗣さんはドヤ顔で言い、マグカップの中で冷めたまま放置されていたコーヒーを口の中洗い流すみたいにして一気に呷った。 (余談だがあのマフィン……どう見てもうちの嫁さんの作ったマフィンに見えるんだけど……。俺がここに来た時にはなかったから、彼がいつそれを受け取ったのか? 考えられるのは俺がシャワーを浴びていて、嗣さんが部屋に残っていたタイミング。もっと言うならば、バスルームで俺が時任先輩に立ちバックでハメられていた時くらいしか思いつかない。それならば、バスルームから出て来た時に俺と先輩の靴がリビングに投げ込まれていたことの説明もつく……けど、それは考えたくないから――あれは嫁の作ったマフィンではないということにしておく。) 「20歳の時だな、半年間ミユは完全に俺のオンナになってたけど、そーなると関係性変わるだろ? あいつ、恋人やセフレを服従させたがるとこあるし――つまんなくなってやめた」  一度や二度ではなく、20代前半の半年間なんてハッキリと関係があったと言って良いだろう。  その関係が恋人なのかセフレなのか、それともセックスの出来る幼なじみのままなのか……それは彼らにしか分からないが、少なくとも嗣さんにとってそれは『つまらない』関係に書き換わってしまっていたのだという。 「ミユとのハメ撮りあるけど、見る?」  ダイニングからリビングのソファへ戻って来た嗣さんに軽く問われ、 「い、いや~……それは」  時任さんは俺の先輩――でもあるけれど、あのMIUが年下に抱かれるセックスなんて……正直めちゃくちゃ興味はあった……。  それでも躊躇ったのは、さっきまで雄でしかなかった俺の先輩が、ちんぽに堕ちたメスになるところなんて見たく無かったのかも知れない。  だって、相手は友成嗣だ……既婚ノンケだってメスにされてしまうのが実証済みなのに、あのちんぽに堕ちない男なんていないだろう? と、馴染みの雄に対するその妙な信頼は我ながらどうかと思うけれど。 「門外不出だからミユにも言うなよ? ま、見たくなったら言って?」  きっと彼の手にするそのスマホに、口外法度なトップシークレットが握られたままいるのだろうことは、なんとも危うい。 「その後なんだかんだでミユは海外行っちゃったし、忙しくしてて全然帰ってこないし、俺は嫁と付き合い始めて結婚したし」  つまらなそうに言う嗣さんも、時任先輩との時間を楽しんではいたのだろう。 「もしかして――今日、時任先輩が嗣さんに会いに来たのって……」  だから彼の方にある未練は、もしかしたら嗣さんの中にも残っているのかも知れなくて――。 「俺に抱かれに? ――エッ? やだよ!」  しかし切って棄てるようアッサリと返された言葉に、 「嫌だって、そんな……」  俺は頭を抱えた。 「大体あっちにパートナー居るんだろうが?」  困惑するよう言う嗣さんは、本気でそう思っているようだ。俺のオナホまんこ使いながら切なげに彼を呼んだ時任先輩のあの声には、本気で気づいていなかったんだろうか?  もしかしてこの人は、自分へ向けられる感情には恐ろしく鈍い人なのかも知れない!! 「俺と3Pしててそういうこと言います?」  何故だか悔しくて言い返した俺に、 「それはそれ、最後の記憶が既婚ノンケだった後輩まんこの育ち具合は、そこは味わっておいてもらわねーと」  またしてもドヤ顔するのが、何というか――非常にムカつく!! 「ほんと、倫理観ブッ壊れてますよね」  俺の感傷返せよ! って気分になるのは、結局は俺も自己満足の自己完結だと分かっている。 「お前が言うかよ? 俺とミユのちんぽブチ込まれて嬉ションしといてw」  だから嘲る声にドキッ♡ としながら、 「あっ、アレはおしっこじゃないです!!!!」  恥ずかしいこと言われるのには敏感に反応してしまうのだから、俺も始末に負えない。 「似たようなもんだろーが、盛りのついたメス犬だろ? 首輪付けてやろうか?」  自分の首を片手で絞めるような仕草で言う嗣さんに、 「く、首輪……」  俺はそれを想像して、 「嬉しそうだけど?」  愉し気に言う彼の言葉を否定しきれない。 「――じゃあ、俺とジャンケンする? 負けたら3日間首輪付けて犬になるってルールで」  趣味の悪い遊びの申し出に、 「俺が勝ったら?」  すぐには折れずに挑むよう尋ねてみたら、 「常勝無敗だって言ってんだろーが? ――まあ、その時ゃ俺がお前の犬になってやるよ。何でも言うこと聞いてやるし、身体中舐めまくって、交尾セックスしまくってやるから……」  余裕綽々な態度を隠しもせずに言う彼が、そういえば年下男だったのだと思い出したら、 「じ、じゃーんけーん」  腕を振ってた。 「おっ? やる?」  よしきた! と児戯に興じるよう身を乗り出した嗣さんに、 「ぽいっ!!」  俺はパーを出し、彼は突き出すような拳を出していた。 「――ハ?」 「え、えっ!?」  分かりやすく固まった彼の顔に、びっくりして見開いた俺の目。 「おま、ふざけんなよ!? 今まで負けたこと無かったんだぞ!? 1回も!!」  しかしいきなりキレ出した男の沸点は、たった今勝負に負けたことではなく、この26年間で常勝無敗を誇っていた子どものような矜持の方で。 「ご、ごめ……」  その勢いに思わず謝ってしまう俺に、 「ぜってぇ~~許さねぇえ!!!!」  見たことも無いような悔しそうな顔をしたお隣の旦那さんは、俺を再びベッドまで引きずって行くや――1時間以上に渡りケツとペニクリをもてあそびながらも、寸止めを繰り返し続けた。  エゲつないドSなとこ時任先輩のこと言えないどころか、かなりシンクロしているのだ――この幼なじみたちは!  そして、俺の精神をボロボロにした挙句――何度お願いしても外してくれないゴム着きセックスで、灯りの点けないままいた寝室でお互いの顔が見えなくなるほど暗くなるまで許してくれなかった。 ◇  友成さんの旦那さんの、常勝無敗のじゃんけん記録を打ち負かしてしまった俺。  そのことに関しては全く大人気のなかった彼は、それから3日間は俺を存在しない者のように無視した。  けれど4日目、真っ赤な革製首輪をして現れた彼は、そのまま本当に犬になると言ってくれた。約束は守るタイプらしい。  そして更に3日の間、俺の犬にわざとらしく……それはそれは愉しそうに「ワンワン」言いながら身体中のありとあらゆる箇所を舐められたし、彼のちんぽが勃起し種付け可能になるたびに、『飼い主の責任』と言われフェラ抜きや交尾セックスを強要され続けた。  こんなのどっちが犬か分からない! って3日間、話の分かる彼の奥さんは実家とビジホを利用して、旦那さんが犬に徹しきれるようお隣の家を丸っと提供してくれたのだという。  本当に、この夫婦はどうかしている!  それから最終的には4日目――今度は俺が赤い首輪を着けられて、人語を離すことを禁じられた上で深夜の散歩に連れ出された……ことは、もはや彼の性質からして言うまでもないだろう。  まとわりつくような熱の冷めきらぬ熱帯夜の公園で、立ちマンさせられたまま潮を吹いてる俺を覗き見ていた大学生風の男がいて。  俺が公園に設置されたピクニックテーブルの上で男に犯される間中、赤い首輪につけられたチェーンリードの先を持った旦那さんに――楽しそうに笑いながら監視されたのだって、ひと夏の思い出にするには過激すぎた。  うちのお隣の旦那さんは、歪みなくこういう男だった。  その過激さに興奮して、いつもより感じまくってた俺が言うのもなんなんだけれど。

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