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第1話

真っ白い天井、点滴の袋、朝目が覚めると初めに見る景色。 窓を向くと雪がチラついていた。 「もう冬か……」 ここに入院して一年近く経つ。 去年の春、不治の病を宣告されて以来ずっとここで入院生活を過ごしていた。 「康太ー!今日も来ちゃった」 「明日美(あすみ)、寒かったでしょ。冷えてない?」 「めっちゃ寒かった!ジャーン!ケーキ買ってきた。紅茶も。お茶しよっ。暖かい紅茶で暖まろうー」 「お湯まで持ってきてんの?準備良すぎだろ」 くすくす笑う僕をみて明日美も笑う。 大きな花がゆっくりと咲くような笑み。 明日美は美人だ。 いつも明るくて元気で、美しい。 紅茶とケーキを楽しみながら、今日も僕は漫画を書く。自作漫画の、タイトルは【春色の初恋】。 「ねえね、康太の漫画読ませて!めっちゃ続き気になってさ、走ってきたもん」 「ん、続きこれ。もうすぐ完結するんだ」 「えー、もう終わっちゃうの?なんか寂しいね」 色んな話をした。 春色の初恋に出てくるキャラクターの話。 学校のみんなの話。 僕は1年の春、直ぐに病気を宣告されて入院生活が始まった為、ほとんど学校には行ってない。 明日美は幼稚園からの幼なじみで、内気な僕の唯一の親友だった。 「へぇーそっか、……ゲホ、げほげほっ」 「康太!大丈夫っ?先生呼んでこようか?」 明日美の顔色が変わる。 心配症だな、まあ無理もないか。 「大丈夫だって、いつものことっ……うっ、げほ、ゲホゲホ、ゲホッ、ゲホッ!はぁ……はぁ」」 咳が酷くなって口に手を当てる。 手のひらを見ると、鮮血がべっとりと付いていた。 今まで咳で倒れたことはあっても吐血したのは初めてだ。 サァ、と血の気が引く。 「康太っ、康太!先生!康太がっ!早く来て!」 ナースコールを押して叫ぶ明日美。 薄らぐ意識の中で、取り乱す明日美は看護師に抑えられている。主治医が慌てて走ってきて、康太くん!聞こえる!?と叫んでいた。 明日美――。 泣かないで、明日美。 花のように美しいあなたには、ずっと笑っていて欲しいよ。 涙を流す明日美の顔を最後に、僕の意識は途絶えた。

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