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第10話

「うん、ちょっと待って」 鍵を開けると、ガラガラと扉が空く。 聡介は僕を見た瞬間フリーズしてしまう。 そんなに変だったかな。 「どうしたの」 「ああ、いや、すごく似合ってるな」 「嘘だ。変でしょ?」 苦笑して否定すると腕をぐっと引かれて、距離が近くなる。 見上げると、聡介の整った顔。 「変じゃない。すごく、可愛い」 「へ、」 可愛いなんて、男の僕に言うなんておかしな話だ。 驚いて変に間抜けな声が漏れてしまう。 でも聡介の顔は至って真剣だ。 聡介は何か言いたげな顔をして、パッと手を離して離れる。どうしたんだろう。 「そうだ、エプロンの紐、後ろで結んでくれない?」 「ああ、分かった」 後ろにまわって、丁寧にエプロンの紐をリボン結びにしてくれる。 なあ、と声をかけられる。 位置関係で耳に聡介の息がかかってビク、と身体が驚いて跳ねてしまう。 「わっ」 「ああ、悪い。締めすぎたかな?」 「ううん!だ、大丈夫。どうしたの?」 少し流れる沈黙。そんなに話しずらい事なんだろうか。 様子のおかしい聡介に、なんだか落ち着かなくてソワソワする。 「柊は、その、……美緒が好きなのか?」 「えっ?なんでそうなるの?!」 「この前、美緒が大事な人に似てるって言ってただろ。それに、さっき美緒に、可愛いって言ってたし……」 まずい。聡介は美緒の事が好きなんだった。 いらぬ誤解をされては困る。 せっかく聡介といい関係でいるのに、ここから美緒の事で関係が壊れるのは避けたい。 「それは!たしかに言ったけど。好きとかそう言うんじゃないよ!全然違う!」 僕は、全力で否定した。 「じゃあ、……好きな人は居ないのか?」 「いないよ!いる訳ないじゃん」 僕の必死の弁明の甲斐があって、聡介はホッとしたように「なんだ、そうだったのか」と言った。 良かった、いつもの穏やかな表情に戻ってくれた。 着替えが終わって、二人で準備室を出る。 「やだ!密室で二人で何してたのよ!」 美緒に捕まってまた変なことを言われる。 「別にいいだろ」 聡介が美緒の頭をポン、と撫でた。 それを見ていた僕は、胸の奥がジリ、と焼き付くような変な感覚になる。 なんだろう、この感じ。

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