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第9話

「どうして僕がメイド役なんだろう……」 漫画、【春色の初恋】では美緒はメイド役だった。そして、メイド姿の美緒に聡介が照れながら褒めて、その言葉に美緒がときめく、というストーリー描写があったはず。 なのに美緒は執事役。 そして何故か僕がメイド役になっている。 漫画の世界だけど、僕が来たことによって歪みが生じて、ストーリーが変わってるのか? 「決まった事嘆いたってしょうがないでしょ!さっ、メイクしてくよ」 準備に準備を重ねて、ついに文化祭当日。 みんな気合いが入っていてクラスの皆はもう既に大盛り上がりだ。 みんな執事のスーツやメイドの制服に着替えていている。家庭科部の生徒がかなり本気で仕立ててくれたから、みんなサイズもピッタリでそれなりに映える。 美緒は男子メイド達のメイクを担当してくれている。みんな男だけど、美緒のメイク術で普通に見れる程度には仕上がっている。すごい。 「メガネ外して」 「うん。よろしくお願いします」 メガネを外すと、美緒がわあ、とうっとりした顔で僕を見つめる。 「思ってた通り、目大きいし顔も小さくて肌白くて、めっちゃ可愛いね」 その言葉、そっくりそのまま返したい。 「中井さんの方が、僕なんかよりずっと綺麗で可愛いよ」 「へっ?なになに、ちょっと、恥ずかしいんですけど」 美緒が顔を赤らめて、恥ずかしいのか顔を手でパタパタと煽る。 「ふふ、照れてる中井さん、初めて見た。なんかいいね」 「もー!からかわないで!ほら、メイクするんだから目、閉じててね」 下地やファンデーションをパフで塗って、アイブローやアイシャドウも丁寧に筆や指で乗せられる。 「いっかい目、あけて」 そっと目を開ける。視線を感じてその方向を見ると聡介と目が合った。 何か言いたげな顔をしていて、なんだか気になってしまう。 「はい、目閉じて。アイライン引いて……目あけていいよ!」 最後にピンクのリップを唇に引く。 「はいっ、完成。やば、あたしって天才かもしんないっ!」 みてみて、と手鏡を渡される。 そこに映っていた自分に、吃驚する。 たしかに、美少女と言ってもいいくらいには完成度が高い。 ここまで化けることが出来るとは、美緒のメイク術様様だな。 「はい!これメイド服ね。隣の準備室が仮更衣室になってるから、着替えてきて」 メイド服を渡されて、隣の準備室にはいる。 使わなくなった備品や机やイスが積まれているから、スペースは狭い。 メイド服に着替える。エプロンの付け方が後ろでクロスになっているから少し難しいけど。 エプロンの付け方に手こずっていると、コンコン、と扉をノックされた。 「はい?」 誰だろう、影的に男子生徒っぽいけど。 「俺だ。ちょっといいか?」 聡介の声だ。

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