16 / 41
第16話
聡介side
『聡介は、特別なんだ。僕にとって。僕の理想で、夢だった……夢でしか無いんだけどね』
哀愁を漂わせて笑う彼。
俺と同じ歳くらいだろう。
真っ白な病室の、真っ白なベッドに横たわる、真っ白な雪のような肌の彼は今にも消えてしまいそうな程儚げな雰囲気を纏っている。
『僕も学校、行きたいな。友達と勉強したかった。一緒にバスケして、行事も本気でやって……そんなふうに過ごせたらどんなに良かったかな』
ベッドの隣で座る女の子は、どこか美緒に似ている。顔は見えないけど、黒くて長い髪の後ろ姿がそう思わせた。
『康太、ずっと待ってるからね』
美緒に似た女の子が、康太と呼んだ男の子の手を握る。
『僕、もう諦めてるんだ。その代わり、夢は夢のままで、僕のものにしていたい。だからこの漫画を描いてるんだ。明日美に、読んで欲しいな』
『康太……』
涙を滲ませる明日美、と呼ばれた女の子。
その女の子の愛しそうに見つめながら頭を撫でる康太という男の子。
窓辺にあった桜の木は桜が散っていて、緑の葉を優しく揺らしている。
夕暮れに空が深い橙色に染まっていた。
******
ハッとして目を覚ます。
また、あの夢だ。
「柊……?」
夢の中に出てくる康太という男の子の顔は柊とは違うけど、どこか危うい程儚げな雰囲気がよく似ている気がした。
最近柊とよく一緒に居るようになって、何度と見る夢。
いつも同じ夢だ。
不思議と気味悪さみたいなものは無い。
またあの夢をみたい、そう思ったりもする。
聡介、と俺の名前を呼ぶ康太の目はとても愛に満ちていた。
「まったく、変な夢だな」
これも、柊に対する気持ちが見せる夢なのかな、とそんなふうに思ったりもする。
柊に似た男の子が夢に出てくるのも不思議じゃない。
柊に、あんなふうに俺の名前を呼んでもらえたら、どんなに嬉しいか。
そんな願望が夢に出ているのかもしれない。
「はあ、駄目だな。柊のことばっかり……」
自分でもおかしくなる程柊のことをずっと考えている。
頭をかいて、よし、と朝支度を始める。
朝ごはんは味噌汁に焼き鮭の和食。
楠木家は朝からしっかり食べる事が家訓だ。
綺麗に食べてキッチンへ食器を運ぶと、あとは母親に任せて行ってきます、と挨拶をして玄関を出た。
ともだちにシェアしよう!

