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第1話
感情に形なんてあるわけがないけれど、悲しさが人の形になったとしたらきっとショーゴみたいな形をしていると思うんだ。
ショーゴはおれを殴る時、いつも泣きそうな目をしている。とても怖くて凶暴な顔なんだけど、目だけはいつも迷子の子供みたいで。日曜日のデパートで家族とはぐれてしまったみたいな、だけど自分が迷子だなんて認めたくなくて誰にも頼ることができなくて、人混みん中で歯を食いしばって泣くのを我慢している子供みたいな。そんな顔しておれの鼻をつぶすショーゴは、きっとおれよりもっと痛い思いをしているんだと思う。
「それって普通にDVですよね」
バイト先のヤマモトは確かおれよりふたつ年上。いつも必要最低限のことしか喋らないくせに、おれが鼻に大きなガーゼを貼って出勤した時だけ変に食い付いてきた。おれより後輩だからって敬語のヤマモトは、休憩室で真っ黒な目をしておれを見た。
「マシロさん、別れた方がいいんじゃないですか?」
机の上で肘を立て組んだ両手の上から、ブラックホールがおれをみつめる。
「DVなわけないし。おれとショーゴはラブラブだし」
そう云ってみた言葉は、どこか他人事みたくおれのくちびるをこぼれてゆく。おれ自身が信じ切れてない現実って、やっぱり嘘の幸せになるのかな。
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