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向こう側 1
気が付くと一人になっていた。
真っ黒な空間に取り残されたイオンは、全身から汗が噴き出して嫌な呼吸が繰り返されてしまう。
右を見ても左を見ても、全部全部真っ黒だった。
「…っ……はぁ……」
心臓が凍り付いたみたいに痛い。
イオンは服の上から胸を押さえながら、思わずその場に崩れ落ちてしまった。
どこからか、電子音が聞こえてくる。
ぴ、ぴ、と単調で無機質な音。
死ぬ、俺はもうすぐ死ぬ。
魂にこびりついた恐怖が蘇ってくる。
イオンは頭を抱えながら、その気の狂いそうな音を聞かされ続けていた。
何かないかと辺りを手探りで這い回るが何もない。
イオンはふ、と思い出してジャケットのポケットに手を突っ込んで中身を取り出した。
それは、一枚の白いハンカチだった。
金色の糸で、不思議な形の刺繍が施してある。
真っ黒な中その金色の糸が輝いていて、じわっと視界が滲んだ。
だんだんと意識が薄れていく。
こんな事になるくらいなら。
「…告っとけば…よかった……」
ぴ、ぴ、と。煩いくらいだった無機質な音が遠のいていく。
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