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引け目 5

呆然となっていたイオンは、ぽろぽろと泣いているリウムに気付いて慌てて身体を起こす。 「っ…もう…やめてよぉ…僕が、全部わるいから…っ…けんか、しないでよ…っ」 泣きじゃくり始める彼の頭を撫でながら、イオンは学園に来た時から同じ部屋だったのに彼がずっと傷付いていた事に気付けなかった自分を呪った。 主人公だ、とか言ってちゃんと見ようとしていなかったのかもしれない。 彼が選ばれた人間だから、と。 「ごめんリウム…ずっと、気付けなくて…」 イオンが謝ると、リウムは首を横に振った。 「い、イオンくん…先輩も、エルメーザも…ずっと僕のために怒ってくれてたんだ…っ…僕は…う、嬉しかった…」 「うん…」 「ただ…、っ…僕は…っ先輩もエルメーザも… …し、死んでほしくないって思ったから…っ」 「リウム…」 リウムは涙を拭いながら、顔を上げる。 どこか沈んだ瞳で三人を捉えると、小さく息を吐き出した。 「もういいよ……どうせ僕は、そのうち……し…死ぬから…」 「何を言ってるの…死ぬわけないじゃん…」 「……僕みたいな存在は…け…結局…使い捨てできるような存在なんだ… それでも……僕は…、っ…世界を救うのを、邪魔することしか…っ、選べなかった…」 「……は…?」 リウムの言葉に、思わず時が止まってしまう。 次の瞬間、足元が奈落のように真っ黒になった。 そして自分を取り囲む空間も。 イオンは思わず振り返った。 そこは医務室ではなくなっていた。 エルメーザも、レンシアも見当たらない、ただただ真っ黒な空間だった。 「なに…これ……」 それは、人間がいてはいけない空間だとすぐに分かる。 肌に触れる空気が、あちこちに張り付いている気配が。 まるで、死、みたいな。 「リウ…ム……?」 リウムは両手で顔を覆ったまま、ごめん、とだけ呟いた。 「イオンくん…友達って…言ってくれてありがとう……大好きだよ… …幸せに、なってね……」 不穏な言葉を残して、リウムは闇に溶けるようにどんどん身体が真っ黒に飲み込まれていく。 「ま、っ……!待て!リウム!!」 イオンは咄嗟にその腕を掴んだ。 そしてイオンの身体も、闇に飲み込まれていった。

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