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引け目 4

彼はエルメーザの手を逃れると、イオンに駆け寄って背中を撫でてくれる。 「イオンさん…大丈夫ですか?」 「う…うん…」 エルメーザは深紅の瞳を光らせながらこちらを見下ろしていて、イオンは腰が抜けそうになりながらも呆然としてしまう。 「レンシア…私もお前を信じたいがリウムに危害を加える理由も、精霊や幻獣生物と共謀出来るのもお前しかいない…」 「まだそんな事を言っているのですか…」 「前からだ…、リウムはずっと前から傷を作っていた……っ! この学園に来た時からだ!」 エルメーザの言葉にイオンは目を見開いてリウムを見てしまう。 そんな事、全然気が付いていなかったから。 「お前達は同じ孤児院出身だそうじゃないか…!」 「は…?」 「レンシア、最初から気付いていたんじゃないのか!? リウムが本当は“大天使の生まれ変わり”だと…!だからリウムを排除しようと攻撃していたのだろう!? お前以外に、リウムを攻撃する理由を持つものなど居ないように思うが!?」 容赦なくレンシアを怒鳴りつけるエルメーザに、リウムは泣いているように両手で顔を覆っている。 レンシアはふらふらと立ち上がった。 そして、エルメーザの頬を思いっきり引っ叩く。 「……!?」 シーン、と医務室内の空気は凍り付いたように一瞬静まり返った。 「……あなたには想像できないでしょうね…」 静かに口を開いたレンシアの声は震えていた。 それは、怯えているというよりも怒りに震えているような、芯のある低い声だった。 「…たかだか身分程度で意味もなく詰られて殴られる事があるということも。 たかだか親に捨てられたくらいで、人間扱いされない事があるということも。 あなたみたいな何も知らない人間の何気ない一言が、どれだけ心を傷付けるのかも……」 「…っ、先輩……」 「…怒りの矛先を向ける場所を見失うなと言ったでしょう。 あなたがきちんと目を向けるべき人間は誰ですか? 真っ先に、この手を、向けなければならないのは!」 レンシアはエルメーザの腕を掴んで叫んだ。

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