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眠りの淵で 1
前にも一度、こんな光景を見た気がする。
白い寝顔を晒しているイオンを見下ろしながら、レンシアは両手を膝の上で握り締めて
ついでに唇も噛み締めていた。
何が起こったのかよく分からない。
エルメーザの言葉に沸々と怒りが湧き起こって、それをぶつけてしまったらリウムが泣き出してしまって。
イオンはそれを慰めようとしていた。
その瞬間、不思議な声が聞こえてきたのだ。
ゾッとするくらい、美しくも恐ろしい声。
そしてそれは歌のようなものを口ずさんでいた。
…まほうをたべる…
……さいしょはおんど…
そのつぎことば……
さいごは…こころ……
一瞬、闇に突き落とされたような心地の中で
その歌のようなものに包まれていて、次の瞬間医務員のアニーフに叩き起こされた。
どうやら四人とも気絶してしまっていたようだったが、目が覚めたのはレンシアとエルメーザの二人だけだった。
イオンとリウムは何をやっても目が覚めず、結局それぞれ部屋に運び込まれて様子を見ることとなった。
「イオンさん……」
彼はただ眠っているだけのように見えるけど、ぴくりとも動かない。
その様子はそのままどこかに消えて行ってしまいそうで
そう考えるとレンシアは恐怖で身体が震えてしまう。
居なくなる、死ぬ、だなんて想像していなかった。
それなのに、彼の前でそんな事を口走ったのを思い出してしまうと
なんともいえない後悔のような、己の愚かさを呪ってしまうような感情が湧き起こってきてしまう。
「ごめんなさい…イオンさん……っ…」
彼をこんな気持ちにさせてしまったのだろうか。
胸が痛くて張り裂けて、しまいそう。
怖くて怖くて堪らない。どうしたらいいのかもわからない。
レンシアは涙を溢しながら、彼のベッドに突っ伏した。
「っ……居なく…ならないで…」
まだ何も返せていないのに。
数えきれないほど助けてもらって、自分は何か出来ていただろうか。
後悔ばかりが募っていって、どうしようもない。
無力を思い知るようだった。
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