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第7話 俺は冷司が好きだ

小さなテーブルで、向かい合ってカップ麺を食べる。 ただ、それだけなのに、 何だか、初めて一緒に食べるのが新鮮で、余計に美味しく感じる。 「冷司がメシ食うの初めて見るなー」 「僕だって一緒だよ」 「あはは!キスが先だったけどな! お前の尻が思ったより柔らかくてさ、ビックリした」 「エッチだね、人に言わないでよ」 冷司がクスッと笑う。 僕の身体はふにゃふにゃで、筋肉落ちてしまっているから。 だから、全然体力も無い。 でも、それがかえって良かったのかな? 口に残るキスの感触が、まだ忘れられない。 食べて消えるのが惜しい気がしたけど、感触の記憶は忘れなかった。 2人で食べ終わって、布団を畳み、カーペットに座ってパタパタあおぐ。 なんとなく光輝が、ペロリと唇を舐めて言った。 「今キスしたら、何味なんだろ。 俺のチキンラーメン?お前のしょうゆ味?」 クフフッと笑って、冷司が片膝抱いて首を傾げた。 「それ、誘ってる?」 「まあ、そっかな。でも、今日はキス止まりかな? て言うかさ、マジで男同士ってセックスできんの? 危なくない?子供出来ないけど、ゴムいるのかな?」 「どうだろう、やってみる?って言いたいけど、僕は…… 僕は…………」 身体を見せられないんだ。 君は、きっと驚くから。 傷跡に驚くから。 僕は君に嫌われたくない。 顔を伏せて黙り込む冷司に、光輝が身を乗り出した。 「な、聞いていい?」 「なに?」 「冷司が年中長袖って、何の理由? 何か、理由があるんだろ?タトゥー入れてるように見えないし」 ドキリと、身が震えた。 きっと、彼はセックスしたいんだ。 それがたとえ遊びでも。 でも、僕は怖い。 見られるのが、怖いんだ。 僕は、たとえ君にとって遊びでもかまわない。 君とセックスしたい。 初体験が男でも、君なら構わない。 でも……でも………… 知らず、涙がこぼれた。 「ごめんね、光輝」 カバンを取って、立ち上がる。 靴を履き、そして、ドアを出ようとした時、腕をつかまれグイと引かれた。 「あっ」 後ろに倒れる冷司を、抱き留めてギュッと抱きしめる。 「こう………」 そして、彼の言葉を遮るように口を塞いだ。 ペロリと舌を舐めて、チュッと離す。 「しょうゆ味だ」 そう言って、クスッと笑った。 「冷司がどんな理由持っていても、俺は受け入れるから。だから……」 「意地悪だね。僕は、何も言えなくなる」 「言いたくないなら無理に言わなくていいよ、苦しい時は俺が口を塞ぐから」 もう一度、抱き合って軽くキスをした。 「受け入れられるようになるまで、待つよ、いつまでも。」 「僕は…………」 涙を流して言えないでいると、光輝がその涙を指ですくって舐めた。 「泣くな、俺は冷司が好きだ。だから、俺は待てる。信じろ」 真っ赤になった光輝の顔が、照れくさそうに笑う。 ありがとう、でも、そんな優しい言葉、この傷跡を見たらすぐにひっくり返される。 醜い、……気持ち悪いんだって、母さんが、言うんだ…… だから、怖い…… 冷司はクルリとドアを向くと、まぶしい外の世界に歩み出て、アパートの階段をゆっくり降り始めた。 「冷司!」 追ってくる彼を、振り向けない。 立ち止まってうつむいていると、彼が歩み寄りギュッと手を掴んだ。 「また……、また明日、図書館で会おう」 その言葉に、涙があふれる。 君の心遣いが、このひとときが嬉しい。ずっと、続けばいいのにって、思ってしまうんだ。 冷司は、彼の手を振り切るように、足の不自由も忘れて急いで階段を降りた。 翌朝、光輝が図書館に行くと、またいつもの席に冷司はいた。 なんとなく、ばつが悪くて立ち止まり頭をかく。 ふと、顔を上げた冷司が、少し頬を染めて手を上げる。 光輝は手を上げて返し、いつものように左隣に座った。 「昨日、送らなくてごめんな」 「ううん、すぐタクシーに乗ったから。 昨日、ありがとう、助かった」 「うん、ほら、上着の忘れ物。 美味かったな。あんなに美味いカップ麺初めてだった」 「フフッ、ただのカップ麺なのにさ。僕も凄く美味しかった」 光輝がチラリと横を見ると、冷司は笑って参考書を見て、そして横のペットボトルの水を飲む。 ごくん、ごくん、 何だか、その喉の動きさえ色っぽく見える。 時間を見て、今日は早出なのでもう行かなきゃならない。 「じゃ、今日早出だから行かなきゃ」 「ええ??何しに来たの?わざわざ」 「バーカ、お前の顔を見に来たの。そうだなあ、目の保養? じゃ、また明日、図書館で」 「うん、また明日図書館で」 「よし!仕事頑張る!」 光輝はサッと立ち上がって、出入り口近くで手を上げ去って行く。 冷司はクスクス笑って、勉強を続けた。

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