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第14話 冷司はどこだ?

来てない………… 光輝が図書館の中を探し、ため息を付く。 それから、いつ行っても冷司の姿は図書館に無かった 司書さんに聞いても、今日も来ていないと。 この5日ほど見ていないという。 「俺、嫌われたかな?」 焦って、思わず顔を覆う。 自分は冷司の家がどこにあるかも知らない。 司書さんに聞いても、個人情報は教えられないという。 「そりゃそうだよな。どうしてあの時、住所を聞かなかったんだろう」 丁度横に、あのポニーテールの彼女が来た。 本を借りるのか、何だか難しそうな本を差し出す。 チラリとこちらを向いて、自分には似つかわしくない冷司の杖を見て、ニッコリ笑う。 思ったより年だったんだなと、軽くお辞儀した。 「あなた、いつも冷司君と一緒にいるわよね。冷司君探してるの?」 「ええ、最近みなくて。ずっと待ってるんですけど…… 俺、ちょっと先走って……」 ポニーテールが、こちらに急に近づき声を潜めた。 「キスでもしちゃった?」 真っ赤になって返事に窮していると、クククッと嫌な笑いをする。 「友達?それとも恋人?」 「恋人だよ、悪いか」 「あら、良かったわ。いいじゃない、あたしそう言うの好きよ」 そして、名刺を差し出した。 「週刊誌?」 「あの子のこと聞きたいなら電話して、その時の記事くらい読ませてあげるわ。 きっとあの子は話したがらないだろうけど、あなたは知りたいでしょうから」 そう言って、バイバイと手を振る。 記事?? あの、傷跡のことだろうか。 俺は勉強する気も起きなくて、結局図書館を出た。 辛くて、顔をパンと叩く。 「俺、なんでもっと、あいつの事知ろうとしなかったんだろう。 なんであの時、家まで送らなかったんだろう」 どこを探そうか途方に暮れていると、近くの駐車場からあの冷司に絡んでいたガタイのいい男が歩いてくるのを見つけた。 声をかけるのに気が引けるほど大きい男だ。 あの華奢な冷司が恐怖でひたすら謝っていたのも、気持ちがわかる。 でも、何か知っているかもしれない。 思い切って、話しかけてみる。 近づいて行くと、相手は見覚えがあるらしく、奇妙な顔をする。 「あんた、この間見た気がするな」 「あんたがあいつ恐喝してるとき、電話かけた」 「ああ、あの時のか…………俺は恐喝なんかしてない」 「あんた、あいつの事知ってンの?」 男は、怪訝な顔で光輝を見下ろす。 「どう言う関係?ただの友人か?」 こいつには、恋人って言ったら笑われるよな。 「そうだな……親友」 「ははっ、親友か。 お笑いぐさだ。あんな奴に親友か。 やめとけ、お前も不幸になるぞ。あいつは疫病神だ」 疫病神?? 今どきそんな言葉言う奴がいるんだ。 「あんたが不幸になったの?」 「いや、弟だ」 「あんたは冷司のせいで弟が不幸になったって、冷司を責めてるんだ。 それは本当に冷司が悪いのか?弟はそう思っているのか?」 見てわかるほどに、男はグッと言葉に詰まる。 どう見ても冷司が直接の原因とは思えない。 あいつは穏やかで優しい奴だ。 逆恨みとしたら、こいつの行動はおかしい。 「あいつは弟に中途半端に希望を与えて、状況を悪化させた上に弟を自殺に追い込んだんだ。 あいつは!!」 「自殺……? 死んだの?」 「死んでない!!でも、車いすになって引きこもりになってしまった。 しかも、何度あいつに弟が勇気を出して手紙を出しても返事を書かない。 弟は、そのたびに落ち込んでいる。 あいつは何度弟を不幸の沼に突き落とせばいいんだ!」 吠えるように怒りをぶつけてくる。 これで怖くない方がおかしい。 「ふうん……それで返事書けって言ってたのか。 弟が不幸なのかどうかはわからないと思うぜ? 少なくとも、それほど絶望しているなら、何度も手紙書くわけ無いじゃん。 なあ、あんた、自分がどれほど見た目怖いか知ってる?」 「えっ??」 「鏡見てみなよ、あんた俺だって話しかけるの勇気が必要だった。 あんたに脅されて、それで手紙見る気が起きるのか? あんた、人の4倍頭低くして丁度いいんだよ」 男は、思ってもいなかった事を言われ、ちょっとショックを受けている。 しばし言葉を忘れて立ち尽くすそいつに、光輝は少し考えて聞いてみた。 「俺、図書館に来なくなったあいつ探してるんだ。 あいつも家に引きこもっていると思うから、住所知っていたら教えて欲しい。 お願いします」 人に頭低くしろといった手前、自分も頭を下げて頼んでみた。 男は、面食らってどうしようか悩んでいる。 頭をかき、頬を殴って唇を噛む。 悩んでる、悩んでる。 「わかった、だが時間をくれ。 家は知っているが住所はわからない。 しかし、今行くと俺はまたあいつに怒鳴るだろう。 俺は……あれから、弟とろくに話しをしていないんだ。 だから、弟はあいつを恨んでいると俺は思い込んでいた。 自殺しようとした時、ずっと弟はあいつの名を言ってうなされていたから。 でも、確かに、あんたの言うとおり、俺は弟の気持ちを聞いていない。 手紙に何が書いてあるか知らない」 思ったより、すんなりと言葉を受け入れてくれて、光輝が驚き男を見上げる。 殴られるの覚悟だったけれど、話せる奴なのかも知れない。 「少し……少し時間をくれ。 これ、俺の名刺だ。ラインで友人申請してくれ。 ショートメールでもいい」 そう言って、就職活動用なのか色んな数字やバーコードが入った名刺をくれた。 西村ゆういち、ラグビー部か〜デカいはずだ。 しかし、光輝は最近やっと安いスマホを買ったばかりで使い慣れてない。 今どき、ほとんど電話だし、メールは一方的に来る職場からの知らせを見るだけだ。 「俺、そう言うのうといんだ。 大学も行ってない馬鹿だから。 普通に明日昼ごろ電話する。連れて行ってくれ。 俺、夜の居酒屋に勤めてるから。 これから仕事だし。帰るのは深夜だ。 明日は冷司と話したいから休み取ってくる。」 「わかった。 あんたは馬鹿じゃ無い、ありがとう。 じゃ、電話待つよ」 「ああ、よろしく」 誰かの兄だという男は、そのまま駐車場に戻ると車に乗って去って行った。

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