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序章 - 1
こんにちは、僕は野軒 歩 。全寮制の男子校、私立綾原 学園に通う高校生だ。
僕が将来通いたい大学への推薦があるため、偏差値がすごく高かったけどこの高校を選んだ。
だってさ、その大学は本当に狭き門なんだよ。外部受験の倍率は20倍で、全教科満点は基準。その上に面接がある。そんな大学へ、この高校で問題なく過ごすだけで入れるんだよ?
そりゃ頑張るさ。
必死に勉強して何とか高校に合格した今、金銭面で迷惑をかけたくないから、奨学生になり何とか過ごしている状態。
奨学生とは、高校側が出す基準を学業やスポーツで満たし、なおかつ人材が良ければなることができる。
僕はスポーツはあまり得意ではないから、勉学で入ったのだ。優秀さを認められてか特待生へとなり、この学園に入学できたのは本当に運が良かったと思う。
だけどこの高校(学園だけどね)少々厄介なところがありまして……。
ひとつ、この高校は、ザ・金持ちしか通えないらしく、校舎は馬鹿でかいし物も高級感に溢れている。つまり、物価が全てにおいて高いということ。
ふたつ、この高校は小学生からエスカレーター式。全寮制の男子校なので、街の外に出るという選択肢は生まれない。つまり、女子との交流が圧倒的に少ないのだ。つまり、男が男を好きになる同性愛者が多く見られる。聞くところによると、ホモやバイが9割以上を占めるらしい。
みっつ、この高校では、抱きたい、抱かれたいランキングが毎年あるらしく、その総合で上位が生徒会に選ばれるらしい。
しかも同じクラスのほとんどは大手企業のお坊っちゃん。聞いたときは失神しそうになったよ。
「はぁ……」
思わずため息が出る。
入学して早2ヶ月目。僕は早々に挫けそうです。
「隣で溜め息吐いてんなよ気持ち悪い」
前の席に座ってる男が毒づく。
彼は難波 沙羅 。小柄で童顔。金に輝く長めの前髪は、つり上がった目を縁取る長めの睫を隠している。ビー玉のような青い瞳をもつ彼は、僕の友人の一人である。ちなみに、沙羅たんって呼んでるよ。
肌は白くて女か、とか言いたくなるほどの風貌をしている。
だが、その実際は口が悪い、いつもしかめっ面、大の人見知りというスペックを持っている。だが、男だ。
後ろの席のクラスメイトに「ツンデレ萌ぇええええええええ!」とか言われてたな。
「いや、あんな煩わしいやつらがトップだと考えたらため息つくでしょ」
僕の言葉に、「確かにな」と同意する沙羅たん。
「あんなんが生徒会長とか笑える」
沙羅たんも入学式のことを思い出したようで、顔を歪めた。
「あんなんとはなんだ。王道ジャマイカwww」
突然背後からハイテンションな声が聞こえ、僕と沙羅たんはビクン、と肩を跳ねさせる。
「きっも」
「あらあら沙羅たん今日もツンデレっぷりがはんぱないっすわwww」
朝から超ハイテンションなこいつは高田 寛智 。本人曰く、腐男子である。つまり、男の絡みを見るのが大好きな奴なのだ。
日に当たると焦げ茶色の髪はボッサボサで、前髪をピンで止めている。黒縁眼鏡をかけている垂れた瞳の奥は爛々と輝いている。
こいつ前、僕と沙羅たんを妄想しやがったらしく、沙羅たんに殴られてたっけ……。
「そうそう、聞いてくだしゃいましお二人さんwww」
寛智は腐ヒヒヒヒ、と実に嫌な笑みを浮かべながら、こう宣言する。
「明日転校生が来るのだーーーー!」
……。ああ、そう。転校生ね。
「はいはい、ワロスワロス」
「ちょw歩君辛辣ぅーwwwそこに痺れる憧れるぅーwww」
拳を天高く振り上げる寛智に、しっしっと冷たい言葉を振りかけるのだが、全く効果なし。恐るべし腐男子。
「この時期に不自然ジャマイカwついにこの学園にも王道がやってくるのねw」
「で、何の用?」
先程の会話をぶった切った不機嫌丸出しの沙羅たんに怯まず、僕らに手を差し伸べる。
「一緒に王道を見に行かないか?」
と。変にイケメンボイスで。
「「嫌だ」」
「何……だと……!?」
見事にハモった僕達の答えに、寛智はがくり、とうなだれた。
「勝手にひとりで行け」
「嫌だおwww沙羅たん一緒にいこうよーw」
「うわっ離せばかっ!」
沙羅たんに抱きつく寛智だったが、僕はすぐに二人を引き剥がす。
「沙羅たんにくっつくな、穢れる」
「あべし!w」
僕はオタクを蹴り出して、沙羅を抱き寄せる。
沙羅たんは目を微かに見開き、
「歩――……キモい」
「ぐはっ」
僕は沙羅たんから痛烈な一撃(言葉)を浴び、倒れる。
そうなのだ……僕にはたった一つの弱点がある。
そう、僕は可愛いもの(人)が大好きなのだ。
こう、内面的な可愛さね。沙羅たんは本当は凄く可愛いのよ!時折見せる赤面した顔とか、照れ隠しとか、俯きながら小さくはにかむ姿とか。
他にもかわいい子いっぱいいるけど、彼はピカイチなのだ。しかも、彼ったら
「……いっ!」
「さっさと戻ってこいニット帽男」
頭を教科書で叩かれ、我に返る。
ここで、僕の容姿を説明しておこう。
身長は174センチ。真っ黒の髪と瞳。いつもニット帽(もちろん耳付きね)をかぶっているのだから、これがみんなから覚えられるチャームポイントとなっている。
実際は校則違反なんだけど、風紀委員長である2年A組の五十嵐 爽 から「俺が風紀委員長である間は許す」と言ってくれた。
本当にありがたい。さすが沙羅たんの彼氏である。
「フッ……フフフフフフ」
隣で寛智が変な笑い声を上げながらゆらりと立ち上がる。
「歩君、もちろんタダとはいわないよ」
寛智は懐から写真をいくつか取り出し、僕だけに見せる。
「一緒に行ってくれたらこの、沙羅たんを含めた君の大好きな可愛い人達の写真達をあげようではないか」
「乗った。あなたにどこまでもついていきます」
僕らはがっしりと手を握りあった。
「そこまでだ。もうチャイム鳴ってっぞ」
上から降ってきた担任のだるそうな声に、僕は固まる。
「いちゃつくのは後でにしろー」
いそいそと席に着く。
ちなみに席は、廊下側の後ろから二番目に廊下側から沙羅たん、僕。僕の前に寛智がいる。
担任の、寛智的に言うホスト教師は面倒くさがりなのか、席は自由にしてくれたので適当に座ったら2人と仲良くなった。
この学園、1クラス40名の7クラスまであり、その中の勉学での特待生は3人いて、僕と沙羅たんと寛智(不思議だ)である。
このクラスは学年で一番家力が強いクラスだ。だからなのか生徒の態度が高圧的で、顔と権力にしか目が向かない。まあ僕のクラスは不思議とそうでもないけれど。
「次、移動。早く準備しないと置いてくぞ」
ムスッとした沙羅たんの声に、我に返った。
「とか言いつつ、待ってくれるんだから。沙羅たん優しい」
「――ッ先行く!」
ありゃりゃ。怒らせてしまったか。
大股で先に行ってしまった沙羅たんを残念そうに眺めていると、寛智に
「フ……仕方がないwこの全知全能な我が一緒についていって「行くか」
沙羅たんに置いてかれたら困るぜ。
「ちょwお待ちになってお代官様www」
僕は寛智と共に沙羅たんを追いかけた。
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