2 / 16

序章 - 2

………  昼休み。  僕と沙羅たんと寛智は学食に食べに行くことにした。いつもは寛智は手作り弁当を持ち込み。僕らは注文して食べている。  とんでも長く広い廊下を見ていると、3年でここも慣れるのかなーとか思ってみる。  ガチャ、と馬鹿でかい扉を開けると、中にいた生徒が全員こちらを見ていた。  一瞬、沈黙。 「キャアアアアアアア!!」  大絶叫が食堂を包んだ。  僕は毎度のことに、耳を塞ぐ。寛智は顔を若干ひきつらしつつも笑顔。 「難波様今日もお綺麗で……」 「可憐だわ………」 「あいつ抱きてぇ」 「五十嵐様は今日はいないのかしら」 「何あの平凡とオタク。いつも難波様に纏わりついて」 「あの方とはつりあわないの分かってないのかしら」  毎度のことながら、一つ言わせてくれ。  おまえら、小学生か。  これが、前にも言った、顔と権力にしか目がいかない、という意味だ。人格を外見でしか判断しないって、ルッキズムの塊だな。  沙羅たんはそんな声に目もくれず、空いた席に座る。彼は中学からいたからもう慣れっこなのだろう。  僕も気にしないことにしている。外野は騒いでろってね。  ちなみに寛智は最初「これが王道……」となぜか感動しておったよ。 「あ、あの、沙羅君……」  僕達3人が席に座ったときを見計らって、一人のスポーツやってます!というほど体がしっかりした男子がやってきた。  沙羅たんは一瞬嫌そうに顔をしかめるが、「何」と問いかける。 「沙羅君に弁当作ってきたんだ」  といって、綺麗な包みに入った弁当箱を差し出した。  ……そうなのだ。これも学園の特徴。  格好良い、可愛い子には親衛隊というそいつを好きな奴らが集まったものが出来る。本人の許可が必要らしいが、彼らは好きな人を崇め、先駆けがないか監視し、必要ならば制裁する、というストーカーじみた行為を行う。本人の意志がないのに、本人のため、と言い張るのだからたまったもんじゃないわな。  沙羅たんは、その包みの中身を見た途端、ぼっ、と顔を赤くし「しょ、しょうがないも、貰ってやるよ」と小さく呟いた。  普段は無表情で受け取るくせに今回はこの反応。  僕らは納得したが、男は「本当ですかっ!?」と喜んだ。 「今度何かお礼しにいく」 「あ、ありがたき幸せ……」  俯きぼそぼそと呟けば、恍惚とした表情を浮かべながら去っていく男。うん、キモイね。 「で?w何を貰ったんけでおじゃますか?www」  寛智がそう聞くのも毎回の定例になってるな。  沙羅たんは「これ」と差し出すのは、サンドイッチ。  案の定。サンドイッチ好きなのよねーこの子。 「毎度のことながら、何で拒否しないの?いつもの君ならするはずだけど」  気になっていた疑問を投げかけると、沙羅たんは顔を上げて(まだ顔真っ赤だ、萌)、目をそらしながら小さく呟く。 「爽が、「親衛隊とは仲良くしろ」って。何かあったとき助けてくれるからって。あと昼飯代浮く」  最後は絶対いらない。なんて現金な子。  真っ赤になった顔を隠すようにまた俯く彼に、僕は飛びつく。 「可愛え! この小動物可愛え! 寛智、飼っていい?」 「は、離せニット! あんたも写真撮ってないで助けろ!」 「身近に萌があると飽きませんなーwww」  なんてはしゃいでいたところ、 「……公衆の面前でなにやってる」  傍から見知った声が聞こえたと思ったら、僕は沙羅たんに凄い力で引き離された。いたーい。 「久々にこの時間に来たけど、相変わらずうるさいな」  そう毒づくのは、我らが風紀委員長の爽先輩だ。隣には生徒会書記の刹那(せつな)(しょう)がニコニコと笑っている。この二人と沙羅たんは昔から仲が良いそうだ。 「デュフフフフ腐www」  寛智は気色悪い笑みを浮かべながら二人を激写してる。おそらく妄想でもしているのだろう。ぶつぶつなにか言ってるし。  まあ、毎度のことなので僕はスルーします。 「みんなこれからご飯? 一緒に食べようよ〜」  翔先輩はそう言って笑う。外野が悲鳴を上げたが、勿論スルー。そんな彼の容姿は、身長170センチくらい(本人はあると言い張っている(笑))の赤髪で前髪はアシメで全体的にツンツン跳ねている。長い睫毛の下にある黄色に近い茶色の瞳はパッチリとしていて、沙羅が可愛い系なら、この人は綺麗系だろう。  そして、沙羅たんの次に僕のお気に入りなのだ。 「先輩たま食べましょう食べましょう!」  そう言って先輩に抱きつく。翔先輩は「よしよし」と頭を撫でてくれて、隣に座ってくれた。優しい。  ちなみに先輩も親衛隊の方々とは週1、2のペースで交流しているためか、彼らは比較的温和な人が多い。だから、僕らは制裁されたことなんかないのよーん。羨ましいだろう?  翔先輩に抱きつきながら、前に座る爽さんを見る。  僕と同じくらいの身長なのに、顔がちっちゃい。  短髪のイエローブラウンの髪、涼しげな目に灰色の瞳に誰もが心を奪われるだろう。僕だってそうだ。初めて出会った時から、この人を尊敬している。だから、沙羅たんをからかって遊んでいる彼も大好きだよ! 「今日の仕事は?」 「明日転校生が来る以外ほとんど無かったから、さっさと終わらしてきた」  沙羅たんの問いにフフ、と返した爽先輩の怪しい笑みを見た外野からまた悲鳴が上がる。うるせー。 「あーそれ、明日副会長が迎えに行くやつだね。こっちにも情報来てるよ」 「王道ktkr!!www」  思わず立ち上がり奇声を上げる寛智に、「うるせえ」とチョップする沙羅。 「沙羅たん酷いwww」 「俺的には……」  爽さんの全ての流れをぶった切るあたり、沙羅たんに似ていると思うのよ。 「何で6月という中途半端な次期に編入してくるのか、だ」 「前の高校で問題でも起こした……とかはどうですかね?」  僕の答えに、爽さんは嫌な顔をする。まるで、ここに来てまた問題を起こすことを想像したのだろうか。 「ここで問題起こしたらただじゃおかない」  やっぱり。黒い笑みを見せる爽さんカッケーっす。 「大丈夫だと思うんだけどなー。だって、転校生は理事長の甥だし、編入テストも満点だし、おそらく面接も……「甘いっすよ翔先輩!w」  翔先輩を遮るように寛智が机を叩き立ち上がる。サンドイッチを夢中で食べていた沙羅がビクゥッと跳ねたのを見逃さなかったよ、僕は。 「聞く限り、そいつは王道転校生。つまり、問題が起きないことがないのだよ、なぁワトソン君www」 「何故僕に振る」と僕は冷たく返す。 「寛智君、その王道転校生って何かな?」 「よくぞ聞いてくれましたwww」  寛智は、翔先輩の質問に自信たっぷりとこう返す。

ともだちにシェアしよう!