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これが変化ですか - 1
こんにちは。僕、歩だよ!
さーて、やってきました体育祭最終日!
昨日参加しなかったから他の競技がどうなったか分からないけど、僕らドッヂボール組は生徒会風紀組に挑みます。
再戦だよー勝ったほうが教師陣と戦えるよー。
あと、騎馬戦と団体リレーかな。沙羅たん、今日も朝から見かけてないけど大丈夫かしら……。
「あゆりん! ドッジボールがんばってねぇ」
というか、ドッジボールなのかドッヂボールなのか分からんのよな。分かる。
朝からチャラ男が付きまとってくる。なにゆえ。それにあゆりんてなんぞ。確か昨日まではノノっちだったと思うんだけど。
「同じチームでしょお!」
ああ、そうだっけ。こいつ僕らと同じクラスだったわ。あまりにクラスにいなさすぎて分からなかったけれど。
だから、同じ団体。嫌だわ……。キスの一件まだ引きづってるから顔も未だに合わせづらい。
てか、あゆりんって……(二度目)。
「うるさ」
思わず本音が漏れると、チャラ男は、びくり、と肩を震わせた。
「何なんだよ、お前。さっきからずーっと僕に付きまといやがって。暑苦しいどっか行け。ついでに寛智も」
「ひどいっ! 寛智君関係ないじゃないっ!」と寛智が声を上げる。
首に湿布を貼った寛智を見ると、いたたまれない。僕が巻き込んだんだし。申し訳ないけど、どっか休んでて。
それに、昨日ほとんど眠れなかった。また、何かが襲ってくるんじゃないかって思って。
風紀手伝っている分、人から恨まれるのは当然ちゃあ当然なのかもね。
「キャァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
あまりの大歓声で、思わず耳を塞ぐ。たしかあっちはバスケットボールだ。でっかい体育館を半分に分けてバスケとバレーが同時進行で行われている。
バスケもバレーも僕らの団体は負けており、特にする事もないはずなのだが……。
……バスケとバレー。
閃いた。
「チャラ男、寛智。爽さんとせいの応援行くぞ!」
2人の手を取り、群がる観衆の間を縫って進む。「ちょw潰れるぅwww」とか声が聞こえた気がする。
「意外とあゆりんミーハーだよねぇ」
何だよ、応援しているだけだろうが、失敬な。
「うわぁあ何あれすげえ!」
誠バレーうめぇえええ!何て言うんだっけ。セッターって言うんだっけトス上げる役のこと。
身長的に、てっきりスパイク打つ役だと思ってた。
「爽さぁあああん!」
気づけば、あっちでもコッチでも黄色い歓声に負けないほど僕は応援していたらしい。2人とも引いてた。失敬な。
「うわぁ……」
パス、ときれいな弧を描いてネットに入る。僕、スポーツてんでダメだし、スポーツに詳しくないけど、上手いのは分かるよ。
シュートを決めた爽さんに手を振ったら、僕に気づいてくれて、小さく笑ってくれた。
……ひぎゅぅあぁあああ!!!(声にならない悲鳴)
「五十嵐様、僕に笑いかけてくれた!」
「違う俺だよ!本当に麗しい……」
「掘りてえ……」
「抱いてほしい……」
「おのれ子犬ちゃん達を独り占めとは………けしからんもっとやれ!」
次々に妖艶な悲鳴と溜め息とが混じり合い、そういえばここはホモ高だった、と気づく。
恐るべし、爽さん。
試合は、ええ、お察しの通りどちらも圧勝ですのよ。
ここで、ドッジボールをはさみ、13時くらいに教師と試合。その後騎馬戦、リレーと続く。
「お疲れさまっす!」
僕は、二人を見かけ、走り寄る。せいは「おう」と笑い、爽さんは既に風紀の腕章をはめていた。
「凄い歓声だったね」
「まあ、だいたい爽のだったけど」
せいの呆れた声に爽さんは「たしかに」クスクス、と口を押さえて笑う。可愛いですね、全く。
「歩の試合見てるから、頑張れよ!」
「おうっ」
と、せいと拳をつき合わせていると、爽さんの携帯に電話が入ったのか、携帯を取り出す。
「もしもし。………どこにいる? ……今からそっちに行くから動くなよ」
誰じゃろ。翔先輩か沙羅たん辺りかしら。……あ、そいえば寛智とチャラ男置いてきてしまった。
「悪い。行ってくる」
「いってらっしゃーい」と僕は言う。
実を言うと、ちょっと見てもらいたかったなー、なんて。
「そういえば、予選すごい避け方していたな。翔と見ていた」
「……っ!」
「次も頑張れ」
じゃ、と爽さんは向こうへ行ってしまった。
……見られてた。恥ずかしい。いや、仕事とかで見てないと思ってたからさ。こっ恥ずかしいっす。
「あのさ、気になってたんだけど」
せいは、携帯をいじりながら聞いてくる。ちくせう、現代っ子め。
「歩って、爽のこと好きなの?」
「え、好きだよ。嫌いなわけないじゃん」
何言ってんのこの子わ。
「沙羅は?」
「好き」
「寛智は?」
「好き」
「翔は?」
「好き」
「俺は?」
「好き……って、言わせんなよバカ」
せいが爆笑しているところを見ると、からかわれた。悔しい。感じちゃう、ビクンビクン。
とか、寛智なら言いそう。
「ははっ、歩って面白えー」
ちょ、いつまでツボってるんですかあなたは。
全く、失礼しちゃうわっ。
「ま、頑張れよ。怖かったらまた抱きつけよな」
「し、失礼な。僕は本当に怖かったんだぞ!」
応援してるわ、と未だに笑いをこらえながらせいは、観客席へ行ってしまわれた。
あいつ、覚えてろよ。僕は忘れるけどなっ。
………
「これに勝ったら俺らはモテモテ!」
「「脱、非リア充!」」
「勝つぞてめえらッ!」
「「おうッ!」」
「生徒会風紀に今までのうっぷんを晴らすぞ!」
「「おうッ!」」
「イケメンだからってなめんなこのやろう!」
「「なめんな!!」」
「行くぞおめえらッ」
「「おっしゃああああーーッ!!!」」
今、試合前に円陣を組んでるんだけど、打ち合わせしてないのに凄く息合うね、僕ら。
「みんな頑張れーーっ!」
マリモ、お主いたのか。隣にいる白衣の教師は誰じゃ。山田とにらみ合ってんぞ。
ま、いいけど。
「しゃああーーっす!」
両隣の体育会系の挨拶を聞きながら、スタート。
まずはジャンプボールから。先輩以外みな後ろに下がる。わんこがいるおかげで取れないと、最初に捨てて、次に臨むのだ。ジャンプボールをする人は最初は当てられないので便利だし。
僕たち頭いいー!
「こいやーぁ!」
………
ちょっ。人多いのいいけど、避けにくい。
「おま、避けるなら先に言えよ!」
そんなことを言われましても。僕は避け専門です。
「なに、あのニット帽! 佐々木君に謝んなさいよ!」
「佐々木君ー外野でも頑張ってー!」
僕に味方などいなかった。だけど、気にしない。
ボールなんか受けたら骨折れるわまじで!
「あ!」
先輩が受け損ねた会長の投げた玉がちょうど僕の真上に跳ねた。
「ノノ、取らないと殺す!」
しこんな状況あんまないからね。たまにしかないからね。
「よし、こい」
僕はボールを受け止める体制をとる。
……みなさま、お気づきだろうか。
これは盛大なフラグである。
そして回収されるのが二次元の罪。
ホイッスルが鳴る。
一瞬の静寂の後、笑いと罵声が体育館を満たした。
「て、てめぇええええ! そんなボールの取り方があるかッ!」
先輩が何か怒っているが、周りの声がうるさくて上手く聞き取れない。
「な、何故……」
僕は呆然と呟く。
いや、みんな分かるでしょ、察してよ!
そこまで運動音痴ではないけど、慣れてないんだよ! ボールの距離感とかさ、取り方とかさ!
ええ、取れませんでしたよ、すっぽぬけて触れもしませんでしたよ、文句ある!?
……え、早く結果が知りたい?
んもう、せっかちなんだから。
勝ちましたよ、ええ、勝ちました。大事なのでもう一度言います。勝ちました。
辛勝だったよ。ひとりの差だったんだよね。
勝った瞬間みんな抱き合い涙流し合いだったんだよね。僕ももう嬉しすぎて、寄ってきたチャラ男と寛智に抱きついてしまった。
というところから、この話は始まる。
『これより、午前の部を終了します。これから、生徒会長よりお話があります』
この副会長のアナウンスに違和感。あれ、これから騎馬戦無かったっけ。ざわざわする中、壇上に上がる生徒会長。
「貴様ら、これから大事な話がある」
僕は、いや、僕らみんな静かになる。さすが、生徒会長の力。ついでに、僕はようやくチャラ男と寛智にに抱きついていることに気付いて、思いっきり離れましたよ。ええ。
「午後の部は、現在行っていない競技全てを中止にする」
え、ええええええぇええええぇええ!!?
なにその横暴! ふざけんなよ沙羅たんと空たん(ついでにチャラ男)の勇姿を!
「静かに」
その言葉に、悲鳴と落胆の声が静まる。
「午前に勝利した組はそのまま優勝とする。景品を受け取れるぞ。騎馬戦とリレーはこれからのイベントの後に行う」
何、イベント? なに、なにが起こんの?
「午後1時30分より、生徒会と風紀委員会の模擬試合を行う」
「……は?」
「貴様らには、日頃、風紀に恨みつらみがあるだろう。それを発散させる機会だと思ってな」
なんっっっっってことをしてくれる。
「ちなみに、現在の風紀と生徒会だ。破門されたやつらは参加しなくていいぞ」
「おい」
体育館がザワザワする中、隣でチャラ男が声を上げた。
視線が全てチャラ男に集まる。
会長は薄ら笑いをしながら、「何だ」と問う。
「勝手に決めないで。五十嵐先輩が可哀想ですよ」
「何あいつ……」
「鷹島様に何てことを……」
ざわざわとざわつく声が大きくなってくる。
いやいやいや、こっちまともなこと言ってるからねっ。
だけどチャラ男、僕らを巻き込まないで。ついでに僕らも蔑まれてるからね。「何あのオタクとニット帽」とか言われてるからね。
生徒会長は、ふん、と鼻で笑うと、携帯を取り出しどこかに電話をし出した。
「……もしもし」
爽さんの声だ。
「午後1時30分に、第一体育館で生徒会と風紀委員会の模擬試合をやる」
「……それで?」
ちょっ。爽さん煽らないで。
僕らに聞こえてるのは、会長がスピーカーにしてマイクに近づけてるからね。
「5対5だ。そっちはせいぜい人数を集めるんだな。まあ、そっちはそれ以上の人数でもいいがな」と皮肉たっぷりの会長の言葉。
「分かった」
……え、わかったの?
この試合(?)自体を肯定しちゃったの?
そして、即決。てか、こっちスピーカーなの、知っておるな、こやつ。
「んじゃ、後で。生徒会長さん」
ここで通話が切れた。
……何、この静寂。
やりおる。やりおるわ風紀委員長。
会長は、また不適な笑みを浮かべる。しかし、若干ひきつっている。
「風紀委員にも許可がとれたし、午後をお楽しみに」
静寂の中、そう言って会長は壇上を降りた。
「……」
皆が我に返った後、混乱と歓声と落胆と期待の声で体育館を埋め尽くした。
「なになに、何今の!」
「五十嵐様、相変わらず格好いい……」
「なあなあ、今の聞いたか!? どっち応援するよ!?」
「前々からどっちも気にくわないと思ってはいたが……イケメンちくせう」
「と、と、とにかく! 絶対見なきゃ!」
大混乱中ですわー。
「やっほー」
その中、翔先輩は人とぶつからずにすり抜けてきおった。そいえばこの人も超人だったわ。
「翔先輩、聞きました?」と意外と冷静なチャラ男。
「うん。このイベントはさ、最近生徒会の言動がよろしくないし、生徒の不信感が増え始めたから、それを抑えるためだろうね」
……どゆこと?
「やっぱりですか」
「うん」
「どゆことですかwあたくしお馬鹿だから分からんですwww」
良かった、同志がいたお。
「つまり見せしめってこと」
誠も来たんだ。びっくりした。あなたも突然現れないでよね!
「学園のトップである2つが手合わせするってことは、「こいつらには適わない」と思わせることにある。それで、生徒会が勝てば、「風紀が適わないなら俺たちじゃ家柄だけじゃなく力でも適わねえよ」と思わせられるじゃん?」
なるほど。
「それに、光たち自身も風紀が気に入らないから、ちょうどいいしね」と翔先輩が続ける。
「それでも爽さんがそれを受けたのは……」
寛智の言葉に、みんなが悪どい顔で笑う。当たり前だろ、とでもいうように。
「俺らも同じことを考えてるんだよお」
そう言って碧はにこ、と笑った。ちょっとチャラ男入ったな。
「んじゃ、これから準備しますかー」
だるそうなせいの声に、僕と寛智は顔を見合わせた。
「君も来る」
「ちょw言っとくけどボクマジで風紀と関係ないからね!? 何もしたことないからね!? ただチミ達とおホモ達なだけだからね!?」
寛智……………哀れ。
寛智は悲鳴を上げながら、せいに引きずられていった。どこに行くんだあいつらは。
「オレらも行くから」
「ちゃんと見ててよねえ」
「ちょ……っ翔先輩は生徒会側ですか!?」
もしそうなら僕はどっちを応援すればいいのか。
「一応、風紀委員に籍を置いてるんだなーこれが」
……どゆこと? つまり、翔先輩は風紀側ってこと?
「じゃあね」と翔先輩とチャラ男は人混みに紛れてどこかへ行ってしまった。
「あ、お前」
半泣きになりながら観客席に行くための階段を昇っている途中、知らない男に呼び止められた。目つき怖っ。
「何ですか」
「お前、あいつのこと無視しているみたいだな」
あいつとは。
「あいつと仲良くなるのは気にくわないが、泣かせるのも気に食わねえ」
だから、あいつとは。
「不良君。ちゃんと名前を言わないと分からんのですけど」
「ああ゛っ!?」
「ひぃっ!?」
何ですか!? 正論言っただけだと思いますが!
「あいつはあいつだ! に、新島朝日……だ!」
何名前だけ声小さくしてるんですか。はっきり言ってくださいよ……。まあ、聞こえてますが。
「分かったけど……。君誰よ」
「ああ゛!? 俺が分からねえのか!?」
ひぃっ。顔が良いからってみんなに知られてるとは限らないのよ不良君! チャラ男が良い例だわさ!
「わ、分かりません……あと、心臓止まるかも知れないので怒鳴らないで下さい」
「……チッ。雑魚が」
舌打ちすんじゃねえよ。こっちがしたいわ。変な奴に絡まれてよー。
「オレァ1-Gの鹿渡 健 だ。健康の健でたけるだ」
「りょーかい、かどけん君」
「たけるだ!」
なんだろーこの人。いじられキャラかなーギャンギャン言ってるし。
「んで、かどけん君、暇なら僕と一緒に観戦しないかい?これも縁てことで」
「……ああ゛っ!?」
事前に耳を塞げばこっちのもの。
「僕もぼっちだし。君もどうせぼっちでしょ?」
どうせ、を強調すると、とたんに黙るとだけん君。君、どうせ僕を連れてくるーとかマリモに言ったんでしょう。その手には食わんぜ。
君も道連れなのだよ!
「ほら、行くぞかどけん」
「だから、たけるだ!」
「殴んぞ!」とか「殺すぞ!」とかいいながら僕の後を付いて来る、かどけん君。僕、実はすっごいビビってるからね。かどけん君後ろにいるから知らないと思うけど!
まあこれでぼっちは回避。あとは、時間まで待つことにしよう。
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