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これが崩壊ですか - 7
その後、2人は驚くような速さで正面の左右に開く扉のドアノブをこちらから開かないようにロープでぐるぐる巻きに固定し、木を伝って2階の窓を音もせずドライバーで開ける。その間、一人の男が窓から顔を出しきょろきょろと周りを見るが、そこには誰もいない。僕らはそこから離れてるし、森の中にいるから死角になって見えないようだ。
2人はその隙に建物の中に入っていく。僕が見たのはそこまでだった。
声が聞こえてこないので、何をしているか分からない。
「寛智、僕がいない間何があったの?」
僕は、不意にそう聞く。沈黙に耐えられなかったからね。
「ん、とね……かくかくしかじか四角いムーブなんですのよ!www」
「なるほど……って分かるか!」
なめておるな、こいつ。
「歩たんはあまり聞かない方が良いでおじゃるよwwwあれは虎と豹の戦いであったしのうwww」
「なんか察した」
僕は手元の紙を見て、把握した。
そこには、さまざまな事件が記されていた。
暴力事件、会社の給料のちょろまかしとか、買収していたり、とかね。
事細かに記されていたよ。
「それは一部ですおすしw実際はあの紙束全て違う事件ですおっおwww」
「この事件起こしてる会社って……」
「お察しの通りこやつらの会社ですよwwwww」
だっておかしいでしょ、傷害事件起こしてるのに示談金払っただけって。
実際は牢に入れられる事件だよ?
「警察も買収してるって爽たま言ってたんすよwだからなかなか尻尾掴めないから困ってるってwww」
あの人たち何と戦っているんだよ。
「記者にもお金を渡して記事を変更させているのよwもちろん、遺族にも、ね?www」
真っ黒やん。
「でも、決定的な証拠が無いから相手はしらを切る。裁判でも勝てない」
僕の言葉に寛智は頷き、転がっている生徒会を見る。
「そいつらの子供が何かやらないわけがない、だろ?」
寛智は眼鏡をかけなおす。
「この時を待ってたんだよ」
どーでもいいけど、爽さんの真似しないでね?全然似てないし、にやけ声ですやん。
「んじゃあ、僕らをさらったのって……」
「生徒会の仕業でおじゃるよw」
わーお。いや、捕まってる時点でそうだとは思ったけどさ……。
「とりあえず僕らは――……ぐふぅっ!」
隠れてれば良いんだよね、と言えなかった。死角から何かが突進してきて、僕と何かは一緒に地面を転がった。リプレイかな?
というか、痛みより驚きの方が大きいんですけど。
「歩たん」とめっちゃ低い声が聞こえた。おそらく寛智が僕を追ってきたのだろう。
「お前ら何で光を誘拐なんかしたんだ!」
わーお。やっかいな子供がやってきましたよ(棒読み)。てか邪魔。僕の上に乗らないで。
「歩、お前も爽ってやつに騙されてるんだろ! 光達が言ってたんだ! あいつやっぱり悪いヤツだったんだな! 寛智も脅されてこんなことやったんだよな! もう大丈夫だぞオレがあいつをぶっ飛ばして――」
「黙れよ」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
ビクリ、と固まるマリモ。僕でも人を大人しくさせる力がありました、やったね僕!
「どけ」
「嫌だ!」
超人人間に力で勝つ気はさらっさら無い。だけど、僕は頭に来てんだよね。爽さんを悪者にする生徒会やこいつに。
さて、読者の皆様問題です。僕はこの後何をしたでしょう。
1.殴る
2.蹴る
3.頭突きする
正解した視聴者様の皆様から抽選で1名様に寛智から何かもらえるよー。え、いらない?僕もだよ。
「いたっ」
脳内で繰り広げていると、頬に衝撃が走った。殴られた、と気づいたのは、口に鉄の味がしてじんじんとした感覚を覚えたからだ。
い、いたい……。
「目を覚ませ歩!」
そう言われ、ガクガクと上半身を揺さぶられる。何なの何なの何なの何なの何なの何なの!?!?!?
「ゲホッゴホッゲホッ」
視界が揺れ息ができない。何で僕こんな目にあってるの。
「いた……っやめっ」
「何でお前はオレを見ないんだよっ! オレは間違ってるお前を正したいだけなんだよ!」
ヤバい、こいつ、ヤバい。
「何で分かってくれないんだ!」
マリモは叫び、腕を振り上げる。また殴られる。
僕は思わずぎゅ、と目を閉じ衝撃に耐えようとするが、なかなかこない。
おそるおそる目を開くと
「あ……」
チャラ男がへらへらした笑みを見せながら、マリモの腕を掴んでいた。隣にはせいが。なるほど。せいを呼びにいっておったか。判断が早い。
「君、今殴ったよね」と碧は問う。
「何だよまたお前かよ! お前には関係ないだろ!」
「殴ったよね?」
チャラ男は相変わらずへらへらと笑っていたが、言葉に圧力があった。てか、マリモどけてくれません?
「う……」怯むマリモ。
「君さあ、いい加減にしてくれないかなぁ? 毎日毎日傷害事件起こしてさあ……」
ぐ、とマリモを自分に引きつける。その声は小さかったけど、一番近かった僕には聞こえた。
「退学になるよ?」
すごく怖かった。どれくらい怖いかと言うと、これぐらい!(脳内で手を広げてみる)
ええ、メッチャ怖かったですよ。
「お、おじさんはそんなことしない!」
「そうかな」
負けじと叫ぶマリモに、せいが答える。
「これ以上問題起こすと、お前を退学にするって言ってたよ」
「嘘だでたらめ言うなッ!」
『あ、あぁ……朝日君かい?』
突然ノイズが入った声がきこえて、ぴくり、と固まるマリモ。
確かこの声は理事長だ。一度だけ入学式で聞いたことがある。
せいが携帯で何かを流していた。
『甥? 何のことかな。僕に甥なんていないよ』
「お、おじさん……?」
『別にあれには何の感情も持ってないよ。あれが問題起こしても私には何の関係もない……だろ?』
「う……うそだ……」
狼狽するマリモ。
なるほど……理事長も“そういう”人間か……。
『ああ、次に問題を起こしたらしかるべき処置をとる。これで問題ないかな、五十嵐君』
「やめろぉおおおおおお!」
マリモが突然声を上げる。そして、碧の手を振り払いせいに飛びかかった。
「やめろそれを消せっ!」
せいがひょい、と避けると、マリモは受け身も取らずにズザザザ、と地面に飛び込んだ。
「で、どうするぅ? 今回のことが知れたら君、やばいよねぇ」
ハートが付くんじゃないか、というくらいにっこりと笑う碧。味方ながら恐ろしいヤツじゃ。
「う……うそだ……うそだうそだうそだ」
ブツブツと呟くマリモ。軽くホラー。
碧はマリモから目を離さないまま僕に手を差し伸べてくる。誰がお主の手など借りるか!
「ちぇっ」
ちぇって、子供かおまいは。
てか、僕まだキスの件で君の顔が見れませんので。
「――ってぇことでー、帰りましょお」
碧は伸びをしながらそう呑気な声を上げる。ぴりぴりしていた空気が一気に和らいだ。
「ああ、うん」
「ちょwww生徒会はともかく爽たま達も置いていくですかwwwなんという鬼畜www」
あ、いたのね寛智。おはよう。
「ちょwひどぅい!w わだすみてぇなシリアスブレーカーはしゃべらないほうが空気壊さなくて済むのだよwぉk?」
やかましいわ。
「翔からメールきてさ、後片付けするから先帰って良いってさ」とだるそうに言うせい。
今の今まで忘れてたけど、あの建物? の中で何が起こってんの? 気になるよ、読者さんが。
「ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!!!」
そのとき、今までブツブツ呟いていたマリモが、一番近くにいた寛智に襲いかかった。僕は、突然寛智が吹っ飛ばされ視界から消えたところで、ようやく気づく。
「寛智ッ!」
僕は思わず駆け寄る。気を失ったのか寛智は「う……」と呻き声を上げるだけ。
「動かさないで。首の筋イってるかもしれないから」
せいも寛智に駆け寄り、ポケットから包帯と湿布と冷却スプレーを取り出す。4次元ポケットですね。
そして、僕らの前に碧が守るように立つ。
「オレはみんなから愛される存在なんだあれはおじさんの声をした別人だそうに違いないこいつらは皆間違ってる正さなきゃ正さなきゃ……」
「真実から逃避するなんて本当に馬鹿だね」
あ、チャラ男口調とれてる。
「言ったよね、寛智と歩に手を出したら容赦しないって」
す、とチャラ男は構える。そう言えば構えるところ初めて見た。
「一回ボコボコにされないと分かんない?」
「碧!」
僕は思わず呼びかける。ピクリ、とチャラ男の体が微かに動いた。
「僕、君がマリモと同じようになるのはイヤだよ」
言った後、ちょいと後悔した。これは寛智から借りた、とあるBL漫画に出てくる受けの子のセリフやないか。
チャラ男は顔だけこちらを振り返る。そこで、久しぶりに目が合って思わず顔を背けてしまった。
「んじゃあ、簀巻 にするね」
……は?
意図が読めず僕が再びチャラ男を見ると、既にマリモが紐と布でぐるぐる巻きにされていた。もう、それどっから出したよ、という突っ込みはしないことにするよ、うん。
「かんちゃん大丈夫ぅ?」
かんちゃんって、寛智のことだよね。
「あ、えと……多分、はい……」
僕は寛智を見て、もごもごと頷く。せいは寛智を姫抱きし、さっさと歩き始めた。
「さぁ、俺らも行くよぉ」
「え、こいつらは」
「大丈夫大丈夫ぅ! 誰かがこっちに向かってきてるみたいだしぃ、放置放置ぃっ」
どーでもいいけど、素とギャップありすぎんよ、あんた。
か、と言って長居するとこちらに来るであろう人とまた悶着ありそうなので、さっさと退散することにした。
……思ったより学園は腐ってるらしい。
僕の日常が崩壊? いやいや、この学園生活は腐ってた。ただ、僕が気づかなかっただけ。
あいつら、どこか性根が腐ってる。
金持ちだから? 顔が良いから?
何でも手に入れられるつまらない人生だから?
……ふざけんな。足元見やがって。
「あまり、人をナメくさんなよ」
顔を上げる。ここの空は都心の中では綺麗な方……なのに、どこか歪んで見えた。
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