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エピローグ:新たなテスト
ユキオを見付けたのはフル装備の救急車だった。
事故が起きる少し前に出動した帰りで、通りかかったタイミングもベストだったようだ。ユキオは速やかに救助されて、全治二か月と診断された。
あと五分遅れていたら、助からなかったそうだ。
「さすが福の神のフルパワーだな。後遺症もなく生還するとは」
感心したように呟いたルーサーを、オレは横目でにらんだ。
「アンタ、性格悪いよ。なーにが、『最後に残す言葉はあるか?』だ」
ルーサーはオレを見ると肩をすくめた。
いつものバー……ではない。
オレ達は病院の屋上にいた。
「嘘はついてない。お前はもう神じゃないからな」
ルーサーの言葉に、オレは自分を省みた。ふわふわと透けている。
救急車で搬送される間も、手術の間も、オレはずっとユキオの傍にいたけれど、ユキオはオレを見ることも触れることも出来なかった。
ユキオがオレを探して病院内をうろついていたり、夜中に小さくオレの名を呼んでみたりしているのも、全部横で見ていたのにオレは何もできなかった。
ショボイと思っていたけど、実体化出来る力って意外とすごかったのかもしれない。
「じゃ、今のオレってユーレイ?」
「ああ。お前はいずれ意識が希薄になって消え失せる」
オレはため息をついた。
「そっか。ま、仕方ねえな。じゃあ……」
「――だが、お前には素質がある」
ルーサーは顎を撫でながらオレをしげしげと眺めた。
「普通、死ねばすぐに輪廻転生の輪に入るんだがな。お前みたいに自我を保ち続けられるのはもったいない素質だ」
「は?」
ルーサーは微笑んだ。
「お前にその気があるなら、改めて神様になるテストを受けてみないか」
オレは口を開けて固まった。
「まあ、テストに合格してもまた新人扱いになるが。お前は貧乏神を嫌がっていたし、無理にとは――」
「やるよ」
オレはほとんど叫ぶように即答した。
昔から、迷ったことと後悔したことはない。
貧乏神なんて周りを不幸にするだけだし、神様の能力もショボいこと極まりない。
気合を入れると実体化出来ることくらいだ。
だけど、ユキオに触れることは出来る。
「やるに決まってんだろ! 何したらいいんだ?」
ルーサーは微笑んで、下を指さした。
「テスト内容は――大けがで入院してる奴を一人、心から笑わせることだ」
オレは一瞬ぽかんとした。
腹の底からむくむく笑いがこみ上げる。
何だコイツ。すました顔して、とんだツンデレ野郎だ。
「出来るか?」
微笑んだルーサーに、オレはサムズアップして見せた。
「ラクショーだ、任せとけよ。 きっちり貧乏神になってみせるぜ!」
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