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第1話 たからもの
初めて会った時のことを、きっとまーくんはもう覚えていないだろう…。
お世話になりました、と引越し業者に頭を下げている両親の傍らで幼い少年は新しい自分の住まいを見回した。新築ではないが3DKの広さがある、7階建ての町営住宅の5階の一室。
若い両親と少年の慎ましい生活には十分な住居だ。
清潔感のある優しいアイボリーホワイトで統一された壁。天井も壁と同じボードを使ってあるのだろう、少年の目には丸型のシーリングライトの明かりで室内がキラキラと光って見えた。
あどけない顔に好奇心と喜びを湛え、まだ大きな家具が設置されただけの生活感の無い室内をチョロチョロと動き回り検分する。
その微笑ましい様子を見て引越し業者の男性は破顔して彼の両親にこう言った。
「お母さんに似て、ものすごい美人になりそうなお嬢ちゃんですね。何歳ですか?」
悪気の無い業者の言葉に、室内の空気が凍る。
少年の母親は不機嫌な態度を隠そうともせず、業者に冷たく言い放った。
「男の子です!どうして歳なんて訊くんですか?貴方のお仕事に関係無いでしょう!」
母親の突然の剣幕に若い業者の男性は大いにたじろぎ、怯えた表情を浮かべた。
「すみません、男の子でしたか…」
母親の怒りの理由は彼には理解出来ない。
母親の隣りにいる彼女の夫は、彼女を宥める事はしない。
彼女の心の傷が、今抉れて血を流している事を知っているからだ。
「ぼく、6歳だよ。」
室内の空気を優しく解きほぐそうと、少年は明るい声色で、萎縮して俯いた業者の男性に微笑みかけた。
努めてくったくなく笑おうとする少年。その努力を、大人達は知らない。
彼はとても冷静に闘っていた。
本当はこの業者の男性の言葉に一番嫌悪感を抱いたのは彼自身だったというのに、背筋を伝う冷たい汗にも気付かない振りをして。
綺麗な笑顔で笑って見せた。
まるで『幸せな子供』のように。
少年の名は梶並雪也。小学校入学を機にこの町に引っ越してきた。
母と義父と雪也の三人での新しい生活がこの町でスタートする。
雪也は5歳の誕生日を迎えてから6歳になるまでの一年間の記憶が抜け落ちてしまっている。
…正確には、幼い雪也の必死の努力によって、『記憶を失っているように』演じているのだ。
その為には、一々成人男性にびくついていてはならないし、いつでも笑っていられなければならない。
…ぼくは、強い男になるんだ。
強くなって、早く大きくなって、たいせつなかぞくを守るんだ。
雪也の脳裏に、亡き実父と交わした約束が甦る。
『雪也は男の子なんだから、もし父さんに何かあった時にはお前がお母さんを守るんだ。大事な人を守れる、強い男になるんだよ』
当時4歳になったばかりだった雪也は、父にもちろん!と胸を張って答えたのだ。
奇しくもそれは雪也の実父、雪伸が事故で亡くなる一週間前の事だった。
雪伸は、まさか自分の命がこんなに早く尽きてしまうとは考えていなかった。雪也が成人し、自分が年老いてからの事を考えて紡いだ言葉だったというのに。
その真意は幼い雪也に推し量ることなど出来る筈も無く、ただ、父親と交わした『大切な約束』として、雪也の心を縛りつけていた。
こわいけど、にこにこしていよう。さわられても、ビクッてならないように気をつけなくちゃ。
雪也は自分の大切な人達…母親を、義父を守りたいと思っていた。大切な家族を守るために、まだ幼すぎる雪也に唯一出来た手段が、すべてを『忘れた振り』をすることだった。
母にとって、義父にとって、自分が、雪也自身こそが、いつまでも癒える事無く血を流し続ける、『傷』なのだと知っていたから。
雪也の母、麗子は注意深く、息子の顔色を読もうとした。
怯えてはいないか。
小さく震えていないか。
顔色は?
目に涙が浮かんでいないか?
膝を落として雪也に目線を合わせ、静かに言った。
「無理をしていない…?」
彼女は、息子に近付く人間に、笑いかける人間に、懐柔しようとする人間に、ひどく敏感で怯えていた。
雪也を16歳で産み、20歳で前夫に先立たれた彼女は、一人で愛する男の忘れ形見を育てようとして…。
長男の息子である雪也を引き取りたいと申し出た前夫の親族が、当時の彼女には自分の宝物を盗もうとする悪者に見え、彼女は幼子を連れて姿をくらませた。
彼女は若過ぎて、世間知らずで、無知で、愚かだった。
美しい顔と若い体ですぐに高収入の仕事が見つかった。
前夫を亡くしてから雪也が5歳になるまでの1年間、彼女は何の問題もなく普通のサラリーマンでは得られ無いような高収入を得、息子との未来を明るく信じていた。
そして次の1年間で、この世の中に醜く汚い欲望があることと、生きながらの地獄と頭がおかしくなりそうな程の屈辱とを味わった。
当時を思い出すたび、麗子は気が狂いそうな罪悪感と止まらない憤りで叫び出しそうになる。どうしてあたしは、この子を守ってやれなかったのか。幾度となく彼女は自問を繰り返してきた。自分が騙されて墜とされたのは、仕方がない。自分が馬鹿だったからだ。けれど、雪也に何の罪があっただろう?
麗子の美しい顔が苦々しく歪むのを間近に見た雪也は、スゥッと深く息を吸い、
「お母さん、どうしてそんなに怒ったおかおするの?ぼくがわるかった?ごめんね。」
細い首を小さく傾げて甘えた声で言い、母を見上げた。
麗子がほぅっと安心したように息を吐く。
「怒ってないよ。ごめんね、お母さんの勘違いだったみたい」
雪也の癖のない柔らかな黒髪をクシャクシャと撫で、思い出したように立ち上がって、引越し業者に頭を下げた。
麗子は雪也を6歳の幼い子供だと考えていた。
少しばかり強がることは出来ても、まだまだ母親に甘えていたい筈だと信じていた。
麗子の安心した表情を見て、雪也は自分が間違っていなかった事を確信する。
これでいい。
ぼくががまんしていられれば、みんなわらっていられるんだ。
こわいのは、またあんな目にあうことじゃない。
こわいのは、お母さんや今のお父さんが、ぼくのせいでわらえなくなることなんだ。
適確な状況判断をした事に満足感を覚える。けれど同時に、そうして自分を無理に押し殺す度、雪也は大切な守りたい家族との間に、見えない壁ができて行くのを感じていた。
「よし、じゃあ両隣りに挨拶に行こう。」
引越し業者が帰った後、妻の麗子が用意した水筒の麦茶を飲んで一休みし、梶並隼人は座っていた木製の質素なダイニングチェアから腰をあげた。
人の良さそうな垂れ目と、少し角張った輪郭。身長は170センチくらいだろうか。
妻麗子の薄紅の薔薇の花のような可憐な美貌とは若干不釣り合いな、地味な印象の男だった。
麗子が隼人と再婚してからまだ3ヶ月しか経っていなかったが、二人の間には気心の知れた柔らかい空気が流れている。
麗子と隼人は中学・高校と同級生で友人だった。
そして雪也にとって隼人は、本来ならば叔父に当たる。
隼人は雪也の実父、雪伸の末の弟で、とても仲の良い兄弟だった。隼人は麗子との結婚を親族に猛反対されたがそれを押し切り、親族経営の会社で約束されていた将来の地位をかなぐり捨て、実家との縁を切ってまで、彼女と、そして兄の息子である雪也と共に生きることを選んだ。
すっと、雪也の頭に手を伸ばす。
柔らかい髪を撫でながら、
「入学式に間に合って良かったな。いっぱい友達作れよ。…お隣りの上月さんちな、これから挨拶に行くけど、雪也より小さい子がいるんだって。仲良くしてあげような。」
妻によく似た顔に微笑みかけた。
応えるように雪也も笑う。
隼人はその笑顔を見るたび、ちりちりと胸の奥が痛むのを感じていた。
どこか痛々しい、つくりものの笑顔。
気付かないふりをしているのは、問題を解決する意思がないからではない。
いつか、この小さな子が心から笑っていられる家庭を、環境を、自分が用意すると決意しているからだ。
精一杯の危うい努力を、必死でつき通そうとしている優しい嘘を、今暴いてしまうのは簡単だ。
けれど、そんなことをすれば麗子も雪也も心の均衡を失い、追い詰めてしまうだけだということが目に見えている。
もとより時間がかかることは承知の上だ。
すべてを背負う覚悟で、家族になったのだから。
お決まりの、引越し蕎麦を手に隣家を訪ねる。
片側には老夫婦が住んでおり、梶並一家を暖かく迎えてくれた。
挨拶と短い世間話の後、もう片側の隣家、上月家のドアチャイムを隼人が押す。
「このお家の子が、一番雪也と歳が近いんだ。」
嬉しそうな表情で雪也を振り返り、手を引いて一番ドアに近い所に立たせた。
少し置いて中から女性の声で「はーい」と聞こえ、隼人が
「隣りに越して来た梶並といいます。ご挨拶に…」
言い終わる前にダークブルーのドアが開いた。
「あ、こんにちは~」
中から現れた女性は、やっとオムツがとれたばかりだろう小さな子供を腕に抱いている。
「ほらまーくん、『初めまして』ってして?お隣りさんだよ~。」
幸福感に満ちた笑顔が眩しかった。
まーくんと呼ばれた幼児は、母親の胸元に埋めていた顔をおずおずと雪也の方に向け、目が合うと「あぅ~」と声を出しながら恥ずかしそうに再び母親の胸元に顔を隠してしまった。
「あれぇ?もー、恥ずかしがってちゃだめでしょ、ご挨拶出来るように練習したのに。」
「何歳ですか~?」
麗子がまーくんのそばへ顔を寄せ声をかけると、またおずおずと顔をあげ、照れながら小さな手でピースを作って見せた。
「いい子だね~。2歳なの。」
「もーごめんなさいね、恥ずかしがっちゃって。わりと人見知りしない子なんだけど、…照れちゃったのかな?」
「あぁ、うちの雪ちゃんも、こんなだったなぁ…。」
「あ、雪也くんだよね?うちの子、正宏っていうの。よろしくね。雪也くんは6歳だったかな?……えっと」
上月智絵は腕に抱いた正宏を抱え直すとヨイショ、と呟きながら、しゃがみ込んで雪也と目線を合わせた。
「多分この子、ずっと一人っ子だと思うんだ。もし良かったら、この子のお兄ちゃんになってあげてくれないかな?」
「……」
突然の申し出に答える前に、雪也は素早く自分の両親の表情を確認した。
…うれしそうに、わらってる…。
その笑顔が愛想笑いではないことを見極めた上で、雪也はよそ行きの笑顔を作って元気な声で、
「わぁ、いいのっ?…まーくん、よろしくね!」
言いながら正宏のまだふにゃふにゃと柔らかく頼りない髪を撫でてやった。
正宏は目を丸くして雪也をじっと見る。しばらく見つめた後、下を向き、顔を上げて母親の智絵の顔を見、そして何かを決断したように一人うんうんと頷いて、
「はちめ、ましてっま、まーくんよっ!」
と言った。
言ったあと、フウフウと肩で息をしながら、『一仕事終えた』とでも言いたげな仕草で薄く汗の浮いた額を小さな手の甲で拭う。
その場に居る3人の大人が、その可愛らしくも滑稽な幼児の行動にどっと笑い出す中、雪也は顔に作った笑みを浮かべながら、面倒だな、と考えていた。
自分のことだけで、精一杯だったから。
ちいさくて、プニプニとやわらかく、頼りない腕が自分に向かって伸ばされる。
はじめは半ば義務的に、その腕を抱きとめたのだけれど。
「まーくん、おいで。」
にっこり微笑みかけると、正宏がふにゃ、と表情をゆるませる。
両手を広げてとてとてと駆け寄ると、雪也にぎゅうっと抱き付いた。
黄色い帽子、たすきがけの鞄。茶色の制服は正宏の成長を見込んで用意されたのだろう、袖の長さがかなり余っている。
「先生、まーくん連れて帰ります。」
「はい、さようなら。気をつけて帰ってね」「さようなら」
雪也は自分の通う小学校に隣接した公立幼稚園に、放課後になると正宏を迎えに来るのが日課になっていた。
「ごめんね、待った?帰ろ。」
左手で正宏と手をつなぐと、同じ方向へ帰る友人たちに振り返った。
雪也を含めた4人の小学生は、みんな同じ紺色の冬用の制服を着ている。
小学校から雪也と正宏の暮らす町営住宅までの距離は子供が歩いて10分程度。
けれど絶対に一人では帰らないようにしていた。
母のいいつけでもあったが、それ以上に雪也の自衛の意思は強かった。
この町に越して来て2年、小学校の登下校の間に知らない大人の男に声をかけられたことが、既に3回。
母や義父には話していない。
「雪也、今日うちにあそびに来ねぇ?てっちゃんも大志も来るんよ。な!」
「うんうん、たまにはさー。」
「んー、ごめん、今日も道場がある…。明後日ならあそべるよ!」
「そっか。かっけぇな雪也!おれも空手習いに行こうかな。」
わずかに紅潮した頬に親しみのこもった笑顔。子供らしい無邪気な物言いに、雪也も笑顔を返した。
「かっこよくなんてないよ。まだ白帯だもん。司君ならきっと、すぐにぼくより強くなっちゃうんだろうな。」
言い終えてからほんの少し拗ねたような表情を浮かべた雪也を、少年たちは眩しそうに見つめた。
くせのない艶やかで柔らかい黒髪、うっすら桃色の頬、白い、白い肌。長くて濃いまつげに縁取られた大きな瞳は、少し色素が薄い。透明度の高い煙水晶のような。
「ゆきにぃちゃっ。」
雪也たちより4歳年下の正宏は、いつもなかなか会話に加わることができない。
「きょうねっ、てんてえとねっ」
一生懸命に雪也を見上げて話しかけるけれど、少し難聴ぎみで、同じ年齢の子供たちと比較すると覚えの遅い正宏の言葉は、とても舌っ足らずで、幼い印象を与える。
「まーくん、あとでね。」
優しい声で、雪也は正宏の言葉を封じ込めた。
しゅんとして下を向いた正宏の手を引きながら、友人たちと談笑して歩く。
自宅のある町営住宅の前で友人たちと別れるまで、正宏はずっと俯いたままだった。
「…まーくん。」
「ひゃぅっ!」
友人たちを見送るとすぐに、雪也は正宏を抱き上げた。
「もー、どうしてすねちゃうの?」
正宏の赤くなった目元に、薄く涙が浮かんでいる。
「ごめんね、仲間外れにしたわけじゃないんだよ。」
正宏の背中を優しく何度か撫でてやると、雪也の肩に頭をのせて、甘えるように額をすりよせた。
「まーくんはぼくのたからもの。さみしい気持ちになんて、ならなくていいんだよ。」
……自分よりも小さくて、幼くて、一人でなんてとても生きて行けるわけのない、弱い生きもの。
正宏は雪也をひどく安心させた。
幼稚園の黄色い帽子を被った頭に鼻を寄せると、なんとなく懐かしいにおいがする。
……こどもの、におい。
「まーくんのことが、とっても、とっても大切。悲しいお顔しないで。ぼくも悲しくなっちゃうから。」
ぷみ、と正宏の鼻が鳴った。
「…ごめんなしゃっぃ。」
「あー、もぅ、はなみずっ!」
一旦正宏を地面に下ろしてから、ポケットティッシュで鼻を押さえてやる。
「はい、チーンして。」
雪也に言われるまま洟をかんで、
「チーンした!」
先程まで泣きそうになっていたのも忘れて、ちょっと得意そうに雪也を見上げる。
思わずプッと吹き出した雪也の笑顔は、見せかけのものではなく。
心を許した者だけに見せる、本当の笑顔だった。
呼吸が浅い。息がつまった不快感。
いつものこと。
もう何年もだ。
また細切れになっていた呼吸を意識して整え、それでも酸素が足りない気がして深呼吸する。
枕元のめざまし時計を見た。
午前3時。
「まーくんは……ねてるか。」
今すぐ、あの子のそばに行きたい。
ちゃんと息がしたい。モヤモヤとした不快感に苛立ち、叫びだしてしまいそうだ。
悪夢には映像がない。幼かった雪也はいつも行為の間中、目をかたく瞑っていたから。
3年生になると、夜は自分の部屋で一人で眠るようになった。
悪夢にうなされて母と義父に心配をかけるのが辛くて、自分から一人で眠りたいと言い出した。
吹き出した汗でじっとりと湿った寝間着がわりのTシャツが煩わしい。ぐいとまくりあげ、フローリングの床の上に脱ぎ捨てる。
「……。」
早く時間が経てばいいと思った。7時になれば正宏が起きる。
壁一枚隔てた隣りに住んでいるのに、どうしてこんなときにそばに置いておけないんだろう。
安心したい。
ここが安全な場所であることを確信したい。
目を閉じたら、また気分の悪い夢にうなされそうで、二度寝をする気にはなれなかった。
今日は吐かなくてすんだだけ、まだマシだったな…。
のろのろとベッドから降り、ライトをつける。
学習机の引き出しをあけ、中に入っていた紙切れを取り出した。そこには、色鮮やかなクレヨンで丸に毛が生えたような人物と、ミミズが這うような文字が書かれていた。
『ゆきにいちやんおたんじようびおめでとう』
正宏がまだ幼稚園に入ったばかりの頃、せがまれてひらがなを教えた。
落書き帳の1ページに一字ずつひらがな五十音の手本を書いてやると真剣な表情で繰り返し練習していたのを思い出す。
翌年の元旦に届いた、正宏からの初めての誕生日プレゼント。
雪也の誕生日は一月一日。
上月一家は毎年田舎に帰って正月を過ごす。そのため正宏は雪也の誕生日に直接プレゼントを渡すことができなくて、一生懸命描いた雪也の『似顔絵』を、母親の智絵に頼んでわざわざ郵便で送ってくれたのだった。
ふふ、と笑みをこぼして雪也は愛しそうに稚拙なオイルクレヨンの線を指でたどった。
スゥッと呼吸が楽になる。
「まーくん…」
本当にぼくに弟がいたら、きっとこんな感じなんだろうな。
正宏がそばにいる間、呼吸がとても自然にできることに気付いたのは、この町営住宅に越して来て半年が経った頃だった。
大人たちがいる場所では不自然な行動をとってしまわないように常に張り詰めて緊張していた雪也が、正宏の傍らでは何も考えずに安らぐことが出来た。
人を疑うことも、恐れることも知らずに、ただ守られて幸せに育っていくこども。
その純粋さも、未熟さも、望んでももう自分には手に入らないと知っている。
「たいせつ…。」
慈しむように紙面を撫でながら、頭のどこかで、ビリビリに破いて棄ててしまいたいという感情が湧く。
「…たいせつ。」
それを振り払うように、雪也は繰り返し呟いた。
「…たいせつな、ぼくの、たからもの……。」
つづく
シリーズ
平凡ワンコ系が幼なじみのお兄さんに溺愛レイプされまくる話
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