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検証と見解
サングラスを外してまたじっと画面を見ていると
「あ…いま画面瞬きしませんでした?」
いつの間にか時臣の隣に床に膝をついて画面を見ていた唯希が声を上げた。
「俺も一瞬あれ?とは思ったけど…」
中条もそう言って画面を見続けるが、時臣は未だじっと見つめ
「たった今の画面の背景色少し前のと違う…」
目を細めてそう言った瞬間に電話から
『その画面すぐスクリーンショットして!』
と言われ、慌てて画像を撮る。
「え?そう?違う?」
と中条は言うが、時臣が見て今も違うと言う画面も一応スクショして画像を並べてみた。
「ほんとだ…違う…」
『白く見えるのとすごく薄く黄色っぽく見えるのがあるでしょ。その黄色い方の背景をできるだけ拡大してみてくれないかな。送ってもらったのは画面を撮影したやつでしょう。これだとよく見えないんだよね」
言われて時臣は、できる限り背景の部分をアップにして目を凝らす。
「ボス、これ…」
唯希が差し出したのは、携帯用のルーペだ。
「ああ、さんきゅ」
それを使って限界までアップにした画面をルーペで見てみると何か文字が書かれている。
「なんか…文字…?かな…書かれてますね」
『それ読める?』
「ん〜〜〜?っと……え?」
時臣の動きが止まり
「なんだこれ…」
と画面から離れ、中条にルーペを渡す。
中条も同じように顔を近づけルーペ越しにその背景に目を凝らすと
「えっと…なに…こいつ…に…ころされ…る…?は?なんだこれ」
時臣と顔を見合わせ首を傾げ、唯希も習ってみてみると、今聞いた言葉は確かに書かれていた。
『こいつにころされるって書いてあったの?』
「はい、すごく小さい文字ですね、背景が変わったのも気づきにくいくらいの薄い黄色です。その文字がずっと羅列されて黄色く見えてますね」
『じゃあねえ、今度はその画面遠くから見てみてくれる?もしくは何か特殊なライトないかな。ブラックライト…じゃだめか何がいいだろう綾瀬くん』
『取り敢えずスマホのライトでもいろんな角度から当ててみてもらいましょう。できますか?』
と返って来たので、唯希がスマホのライトをあて、時臣と中条がソファの後ろに行って画面を見つめた。
色々な角度からライトが当てられ、2人で首を曲げたり下から見ようとしてみたり色々やってみた結果
「お前だ篠田!」
中条が叫んだ。
「え?」
「この、真ん中少し色が濃いところ!お前の目だ、それを踏まえて顔だと思ってみてみろ。黒い文字の問題文がちょっと邪魔だけど、よくみてみろ」
時臣が目を細めて、画面を見てみると確かに顔が見えて、これは俺なのか…という時臣の真顔が映し出されていた。
『ああ、やっぱりそうでしたか…』
電話から聞こえて来たのは綾瀬の声だ。
「綾瀬さんの声ですね。やっぱりとは…」
ソファに戻りながら時臣は尋ねる。
唯希は中条にライトを当ててもらってそこにうっすらとでも浮き上がっている時臣を確認しようとしていた。
『一種のマインドコントロールだね。洗脳よりはそっちに近いね』
「マインドコントロールと洗脳の違いを教えてもらっていいですか?」
以前典孝に軽く説明は受けていたが、専門家にと言われていたので詳しいことを聞きたかった。
『洗脳はね物理的な作用が必要なんだよ。1番わかりやすいのが、DVを受けている女性が、男性に「俺がいなきゃ何もできないだろ」と暴力で言い聞かせられると従ってしまう。あれだね。あれも一種の洗脳なんだよ』
なるほどわかりやすい。ではマインドコントロールは?
『で、マインドコントロールはね、こっちの方がタチが悪いんだよ。これはねネガティブなことを本人にわからないように…というか何気ない言葉に込めたり、今回のようにちょっとサブリミナル的にやってみたりして感情に植え付けてしまうんだね。でもこれは結構長い時間がかけてやるものだから、今回のは特殊と言うか…。きっと効果が長続きすることはあまり考えてないんだろうけど、あなたたちに聞いた話を総合すると、過去になにか怖い思いをさせられたと言うトラウマを持ってる子なら、少し効果が高まると言うのは言えてると思うよ』
画面を見ながら3人は話に聞き入った。
では今高円寺のビルにいる子達は、全員が各々の親が依頼した探偵なり興信所なりの人間の顔を、この画面のような感じで見せられ続けマインドコントロールを施されているということか…。
だから問題を解けと言ってくるんだろう。
そこでまた出てくる疑問
ーなんのためにー
いつもそこに行き着く。
「そのマインドコントロールは解けるんですか?」
唯希が、伊藤瀬奈の母親にそのことを連絡をしなければいけないことを思い出した。
『解けるには解けるけれど、一般的には時間がかかるんだよ。解くのもね。でもさっきも言ったけど、今回のは急拵えだしその辺はなんとも言えないんだ。篠田くんや他の追跡者を見て逃げる、と言うことになっているなら、偶然会ってしまった時に危険だから解きたいけれどねえ』
取り敢えず1人、解いてほしい子がいるので会ってみてくれるかも打診してみることにした。
それには今回の件に興味を持っていることも手伝って、綾瀬は快諾してくれて、富山 先生も自分も同行したいと乗り気になってくれた。
そして今会っている子を『塾』へと戻すかどうかも相談してみたが、当たり前のように
『もどしたらだめだよ〜』
と言われ、3人はそれに従う事にした。
その後は、先程の伊藤瀬奈に合う話は、相手の都合や先生達の都合を後ほど合わせましょうと言うことで段取りを組んで一旦電話は切り、隣の部屋にいてもらった吉田母子を再び招く。
「申し訳ありませんでした。おかげさまで色々わかりました」
席を促して時臣はサングラスをかけた。しかしふと思い
「龍平くん、俺サングラス無しでも平気だったね」
そう言えば、と再び外した時臣の前に立っても取り敢えず龍平に変化はなかった。
「ああ、よかった。この薄暗い部屋でサングラスは少々キツかったんだ」
サングラスを置いてー助かったよ〜ーと目を揉みほぐす。
「でも一応マスクはしておいてくださいね」
唯希に言われ、はいはい、とそれは了承した。
「それでなんだけど龍平くん。一昨日送られてきた問題が、多くてしかも頭痛が今までより強く出たって言ってたね」
中条の問いに
「はい、それまではなんとなく頭痛いな、くらいだったんですけど一昨日からは頭抑えるくらい痛かったです」
思い出すだけで嫌なのか、龍平の顔が歪む
「今は?」
「今は薬で抑えてます。でも、そろそろ切れる頃ですが今は大丈夫ですね」
3人はそれには安堵したが、これから少々厄介な話をしなければならないのは憂鬱だ。
「先ほどの電話で、少しショッキングなことが判りました」
「え…」
恵子の眉も寄る。
「送られて来た問題に、サブリミナルって知ってるかな、少しそれっぽい細工が仕掛けてありました」
龍平が支給されたパソコンの、アップにされた画面を龍平へと向けてルーペを出し
「ここをこれで見てみて」
中条からルーペを受け取り、龍平は言われたところをルーペで覗き込んだ。そして顔を上げて中条と時臣を交互に見る。
「気付いた?」
「はい…はい、これは…」
恵子も気になって龍平からルーペを受け取って見ようとするのを唯希がサポートして見せた。
確認すると口元を押さえて驚いている。
「こいつって…誰なんですか…」
「それもここにちゃんと出てるんだけど、それを今見せてしまうともしかしたらまずいかもしれないから口頭で言うな、俺の顔が仕込んである」
「え…篠田さんの…顔、ですか?」
「そう、龍平くんが俺を怖がるように仕向けた細工の正体はこれだったんだよ」
あまり見るとまた頭痛出ちゃうから、と唯希がパソコンを閉じた。
そこからは、マインドコントロール的なものをかけられている話や、過去にトラウマ級の被害に遭っている子が多い事とか、他の依頼者の子が母親をも避けていた話などをして、やはり少々「やばい」集まりなんじゃないかという結論に至ったと説明をした。
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