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請求書

 急に行われた強制捜査は、短くではあったが10時台のニュースにもなった。 『警察の発表があり次第続報として伝えますが、本日20時に高円寺◯丁目の◯◯ビルに、警視庁の強制捜査が入り、一階のパソコン教室と4階5階の『塾』(よう)の場所が一斉に摘発されました。続報は警視庁の発表が入り次第行います』  それを自室で見ていた木下は、自分が作った場がこんなことになり驚きはしたが、ここから自分に来る事はない事がわかっているのか、顔色ひとつ変えずにテレビを眺めている。 「すごいねここ。なんだったんだろう。塾『(よう)』ってなんかおっかない」  ソファの隣でワインを飲んでいた賢也は、ツマミのナッツをカリカリ言わせながらテレビに見入っていた。 「こう言うのって『ガサ入れ』っていうんだよね。ドラマでよく見る〜」  楽しそうに見ているが、木下はー当然だけど気楽でいいなーと微笑ましくなってしまう。 「当事者はきっと大変なんでしょう。あまり面白がるのもどうかと思いますよ」  賢也の手にしたワイングラスに己のグラスを当てて、目を合わせた。 「まあ、うちの会社に来たらと思うとゾッとするけど、まあ所詮他人事(ひとごと)だからこうやって酒飲んで見ていられるわけよ」  よっと反動をつけながらソファに座り直し、木下の肩にしなだれかかる。 「せんせ?今日もいじってもいい…?先生の気持ちいい顔めっちゃそそるんだよね」  そろそろ飽きてくるんじゃないかと思ってはいたが、まだまだ需要はあるらしいことに内心喜びを隠せないではいたが、表面では 「またですか?最近賢也さん激しすぎて、少々厳しいんですけどね」  そう言う言葉とは裏腹に、木下の目は潤んでしまう。 「それそれ、その顔。いっつもこんな引っ詰めたみたいな顔してるのにさ、こうなってくるとなんか目がうるうるしてくるのいいんだよね〜」  ワイングラスを置いて、座る木下の膝にまたがって座った賢也は 「先生は〜ほんとはシたいんでしょう?」  髪の上を掴まれて顔を上げさせられる。  もう始まっていた。賢也のいじりという名のかわいがりが。 「未だ指認証っていうのが楽でいいよね〜」  そんなことを呟いて木下のスマホを開いた賢也は、画像を確認して ー増えてないねえーとすぐに閉じ、LINEを開いては別段変わったものもなし 「つまんないな」  スマホを放り投げ、水を飲もうとキッチンへ向かう。  冷蔵庫から水を取り出しそうとした時、冷蔵庫の下つまり床の上に紙の角が見えた。 「なんだこれ」  指先で引っ張って広げると請求書だった。 「請求書?なんか買ったのかな」  ¥200,000の数字をみて、 「結構いい額だな。何買った?先生」  20万円もの物だとしたら無意識に大きい物だと思ってしまうが、ここのところ1日おきに来ているが目新しい家具も家電も増えてはいない。  請求元はと思い見てみると 「等々力組…?は?ヤクザ?」  思わず見えない寝室に顔をむけてしまい、なんで木下がヤクザから金銭を請求されているのかともう一度請求書を見入ってしまった。  請求書には、なにやら明細が記してあり  制作費 50,000×4 となっており、消費税は度外視されているらしいヤクザにしては良心的な請求書だ。 「制作費…なんだろう…全くわかんないな…」  賢也は急いで居間にある自分の携帯を取りにゆき、それを画像で収めてから元のところへと戻しておいた。 「ヤクザが絡んでるとなると結構やばいことしてるのかな…俺もそろそろ先生から手、引かないとか。面白いおもちゃなんだけどなぁ。名残惜しい」  いろはすをグラスに注いで飲み干して、居間に散らばった服を身につける。  シャワーは木下が寝いってから浴びておいたから、やっといてよかったと思いつつ、もう来ないだろう部屋を見回して、 「結構いい部屋なんだよな。ま、うちの給料いいからな」  などと笑って、賢也は木下の部屋を出た。  エレベーターを待ちながら、今撮った画像を先日会った探偵に送っておいてあげようと考える。 ーそろそろ先生のことも調べないとだしなぁ。自分()に火の粉が降りかかる前に、探偵さんにまるなげしちゃおうー  なども考えていた。  ◯◯病院 謝礼金 ¥50,000 総師長  △△病院 謝礼金 ¥50,000 事務長  ◇◇病院 謝礼金 ¥30,000 看護師A    ゞ   ゞ    ゞ  こんな感じが延々と続くデータを唯希が作り上げた。 「なんっだこりゃ、これ全部蓮清堂のなのか?」  時臣も呆れた顔でパソコンに見入る。 「これなら業績も上がりますよね…これは用賀支店だけではないので、あの店舗だけを責められませんし、企業努力だと言ってしまえば行いが如何に汚かろうとそれはそれになってしまうのが割としんどいですよね」  唯希はまだまだありますよ、と付け加えてゆくが時臣はもう腹一杯だ と画面から目を離してしまった。 「でもこれだと学生の事件だけと言うわけでもなさそうですよね」 「俺もそれ気になってたんだ。この前悠馬を迎えに行った時にあの岳君と偶然会ってな、あいつガサ入れのニュース見てー自分がとんでもないことしてたーって超萎縮しちゃってて、その時に教えてくれたんだよ。自分がやってた勧誘ともう一つ、特定の仕事があったってな」 「特定ですか?なんのでしょうね」 「バイト決める時に一応話を聞いたらしいんだがな、『塾』から住所を知らせるからその住所の人間を張って、どこの探偵事務所もしくは興信所へ駆け込むかを探るんだそうだ。そしてその事務所の代表なりの画像を撮るんだと」 「ああ〜、そう言うことだったんですね…それで盗撮した画像でマインドコントロールの問題画面を作ったんだ…」 ーよくやるわ〜ーと半ば呆れてダイニングの椅子に寄りかかる。 「割と謎でしたよね、各探偵や興信所の人の画像どこからって…しかもその家の人が行った探偵ピンポイントでくるもんだから、どうしてるのかって思ってたけど…まさかねと思ってた手法でやられて逆にびっくりだわ」 「地道なのは俺らの仕事に似てるけど、今回学生がいいように使われすぎだな」 「楽して稼ぎたいっていう心理を突かれたんでしょうねえ。一件5千円なら私でもやるかも。稼ぐ自信あるし」 ーお前は有能だからだろうなーと思ってみるが、 「そんなに甘くもねえだろ。稼げないやつは稼げないシステムだぞ」 「稼げない子は辞めるだけでしょう?雇う方も、有能だけ残ればある意味win-winですよ」  自分とあまり変わらない…って言うと怒るけど、実際20代後半でここまで20代前半の気持ちを理解するのも大したもんだとは思う。 「まあ、話を戻してだ…最近の蓮清堂はどうだったんだろうな。俺らが学生の調査を控えたら少しは変わったのかな」 「売り上げまでは、流石に外からじゃわかりませんけど、昨日ちょっと飲み屋で隣になった用賀支店の社員さんは、最近忙しさが減ったとは言ってましたね」 「ああ、唯希ん()は農大周辺なんだったか」 「ええ、あの辺蓮清堂の独身寮があるんですよ。家に帰る前にちょっと行きつけに寄ったらお葬式のこと話してる人がいてね、話しかけたら社員さんでしたよ」  パソコンにいまだに病院の賄賂を入力しながら、なんでもないことの様に話し続ける。 「さりげなく色んな情報引っ張ってくるな唯希(お前)は」  行動力も有る相棒だ。 「出来ることは限られるので、最大限の行動でね〜」  チャカチャカとなるキーボードの手も速い。 「あ、メールだ」  画面の上にメールを知らせる合図が光った。 「中条さんからですね。なんだろ」  唯希が中条からだと言ってメールを開けると、『篠田にメールしたけどなんの反応もないからこっちに送った。用賀支店の社長からこんなの来たんだけど、意味わかる?』って」  言われて添付の画像を開いてみると、 「なんですかこれ。ボスにも送ったって言ってますよ。メールみてください」 「中条が?わかった」  時臣もメールを開けてーあ、ほんとだーとメールを開け添付の画像を開いた。 「請求書?制作代 ¥200,000.-    内訳 50,000×4 ?なんだ?」  宛名は故意に切ってある感じで、数字とあとは請求者の名前だけ。 「等々力組って…飛田んとこじゃねえか。なんだこれ。どこから来たって…ああ、用賀支店の社長か…一体これは…」 「誰に当ててこれが届いたのか、これじゃわかりませんよね。なんの意図があってこれを…」  飛田に聞くのは簡単だが、これも仕事だろうから聞いて良いものか迷う。  こちらでそんな話をしている時に、蓮清堂用賀支店では…

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