1 / 15

1.

リビングを灯したままの電気。 それが意味をなさなくなった時間帯。 床に座り込んだままの愛賀は呆然と玄関の方を見つめていた。 産まれたばかりの赤ん坊を連れ去った俊我の面影を。 この腕にはやっとの思いで産んだ小さな命が確かにあった。 確かにその温もりがあった。 まだ慣れなくて、だけど落とすまいとしっかり抱いて、愛賀の腕じゃ不安だったはずなのに、それでも寝てくれた愛おしい我が子。 穏やかに眠る我が子が愛しくて、病院にいる間、一度も来れなかった俊我にもすぐに見てもらいたくて、それから、「あなたとの子どもが産まれて本当に幸せ」と感謝の言葉を述べたかったのに。 愛していたはずの人から出た言葉が。 ──愛賀。お前のことが必要なくなった。 心が追いつかなかった。どうして? 僕の何がいけなかったの。 何で必要がなくなったの。 僕があんなところで働いていたからいけなかったの。 僕にくれた愛情は全て嘘だったの。 「どうして⋯⋯俊我さん⋯⋯」 胸が痛くて、込み上げるものがあってそれが溢れるはずだった。 しかし、散々泣き腫らした目から涙は一滴も出そうになかった。 もう、何もかも終わり。 絶望に打ちひしがれていた。 そんな時、玄関の方から音がした。 それが耳に届いた時、改めて目を向けた。 俊我さんが帰ってきた? あの夜の出来事は嘘だったのか。 俊我を怒らせることをしてしまったから、赤ん坊を取り上げられることになったのかもしれない。 何から何までしてもらっているのになんて愚かな、なんて不甲斐ない。 だったら、謝らないと。 そう思い、立ち上がった愛賀はされどふらふらとした足取りで向かうとした。

ともだちにシェアしよう!