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第1話
「好きです。付き合ってください」
放課後。ふたりっきりの教室。夕暮れでオレンジ色に染まる窓。風で、カーテンが、ふわっと膨れて、なびいた。
桜庭湊 はこちらに向けて、そう、言葉を放った。
色素のうすいミルクティー色の柔らかそうな髪の毛。伏せられた長いまつげ。すっと通った鼻筋にうすい唇。こんな、美形に告白されたら、さぞ、嬉しいだろう。
俺が女だったらの話だけど。
そう、問題なのは、俺、小山朔 はれっきとした男であるということだ。
俺は目の前にいる、男を睨みつけた。
「罰ゲームだろ。終わっただろ。さっさと帰れよ。俺、今日日誌書くんだよ」
さっき、桜庭たちの男子の集団がなにか、じゃんけんでかけごとをしているのを見ていた。
背の高い桜庭を睨みつけようとするには、彼を見あげなくてはならず、そんなことさえ、腹立たしい。
俺に睨まれた桜庭は黙って、琥珀色の目を細めた。
それから、する、と距離をつめて、俺の手を握った。
俺はびっくりして声も出せないまま、桜庭の体温を、手のひらから感じる。
「……最初は、」
ドクン、ドクン。
桜庭の、顔が、身体が、声が、近くて、顔に熱が集まる。
「字が、きれいな子だなって思ったんだ」
ドクン、ドクン。
指を絡められて、心臓がはねる。
「それから、なんとなく、目で追うようになって」
桜庭が、じっと、俺の瞳を見つめた。
「目が、合ったら、なんか、嬉しくて」
距離が近いせいで、桜庭の声が、身体にじんじん響く。
「たしかに、今日、告白したのは百瀬 と剣道 との罰ゲームだよ」
ドクン、ドクン。
桜庭の目が、眩しそうに細められる。
「でも、告白するなら、君がいいと思ったんだ」
カーテンが、ふたたびふわっと膨れて、ふたりの影を、中に隠した。
「ねえ、この気持ちが何なのか、一緒に確かめてくれないかな?」
ドクン、ドクン。
腹を、立てていたのも関わらず、この提案にうなずいてしまったのは、波打つ鼓動が、自分じゃなく、桜庭のものだと、気づいたせいであると思う。
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