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第2話
「マジで付き合ったの⁉」
朝、教室に登校して一番に、百瀬恋 にそう声をかけられた。
明るい色の髪に、着くずした制服、カラフルなピンをさしている彼は、甘い顔立ちをしており、女子からかなり人気がある。
「不躾すぎだろう。小山が困ってる」
その頭を剣道隆 がたたく。こちらも、きりっと整った顔立ちで、過去に剣道で全国大会に行ったこともある、文武両道な俺とは程遠い存在だ。もちろん、女子に人気がある。
「いた!」と声をあげて、百瀬が剣道にたたかれた頭をさする。
「それで? マジなの?」
剣道の仲裁を堂々と無視した百瀬がこちらに目を向ける。
「ええと、お試しだけど……」
「うわあ、まじかよ、賭け負けじゃん。俺」
そう言って、頭を抱えた百瀬を再度、剣道がたたく。
「いた!」
「なに話してるの?」
のし、と、頭の上に重圧を感じて、声が響く。
百瀬も、剣道も、校内ではかなり目立つ存在だけど、一番、女子に人気があるのは。
「湊と小山が付き合ったっていう話」
「ふうん」
頭の上に乗っかっていた人物が、する、と俺の腹に腕を巻き付けて、ゆるく抱きしめられる。
周りにいた女子たちから悲鳴があがる。
そう、一番女子に人気があるのは。俺に告白してきたこいつ、桜庭湊である。
桜庭は、昨日俺に提案した。内容は、自分の気持ちがはっきりわかるまで、お試しで付き合ってほしいというもの。
……どうせ、すぐ、飽きる。
そう思った俺は、それを了承したのだが。
「おはよう、小山くん」
腰をホールドしたまま、顔を寄せてきた桜庭に思う。
俺、早まったかもしれない。
「おはよう……っていう前に離せ!」
女子の目線が痛い。
素直に俺を解放してくれた桜庭にほっと息をついて、距離をとる。
「嫌われてんじゃん」
「うるさいよ」
百瀬に、肘でつつかれて、桜庭が不服そうに、そちらにジトっとした目を向けた。それから、再び俺に向き直る。
「小山くん、知ってるかもしれないけど、この、ゆるそうな男が百瀬。固そうな男が、剣道」
「ああ、うん、知ってる。クラスメイトだし」
目立つし。
後ろで、百瀬が「ひどくね⁉」と声をあげる。
ふたりを紹介した後、桜庭が覗きこむように俺を見た。
「な、なに?」
「小山くん、今日、一緒に帰ろう?」
目を瞬く。なんだ、そんなこと。
「いいけど……」
「ほんとう? やった」
ふわ。桜庭が頬を染めて笑う。
一緒に帰る、それだけのこと、なのに。
桜庭はこんなにうれしそうに笑うのか。
そう思うと、胸の奥が、きゅう、と痛くなって、首をかしげた。
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