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番外編 言えない言葉
眩しい朝日に目を覚ますと、逞しい腕の中にいた。
体もベッドもいつも通り綺麗になっている。
こんなに甲斐性がいい男は、炫にとって初めてだった。
悪態をつきながら、それでも炫を抱く男。
意地悪で、優しくて、世話焼きな年下の男。
鈍くて、時折憎たらしい男。
それがタカヒロだ。
ほのかに煙草の臭いがする。
きっとまた、ひとりで吸っていたに違いない。
寂しいやつめ。
だから、体の向きを変え、タカヒロを正面から抱きしめた。
炫を喜ばせる体は筋肉質で、炫よりも背が低いというのに逞しい。
惜しげもなく晒された上半身。
羨ましくて、鎖骨に吸い付いて赤い痕を残した。
「ん……」
吐息を漏らすタカヒロは起きる気配がない。
今なら言える。
「好きだよ。タカヒロ」
炫にとって、タカヒロとの出会いは雷に打たれたように衝撃だった。
理想の男が目の前にいる。
一目惚れだった。
仕事で少しずつ話すようになり、粛々と業務をこなす真面目さや、ちょっとした気遣いに惹かれていくのは当然のこと。
顔を見るだけで天にも昇るような幸せな気分になり、寝ても覚めても頭はタカヒロのことでいっぱいだ。
炫は生まれてはじめて、恋心がどんなものかを知った。
けれど、体の関係しか持ったことがない炫は、普通の付き合い方を知らない。
だから、体から堕とすことにした。
これまでに身につけた男を喜ばせるテクをすべて使ったおかげか、タカヒロは炫の体に夢中だ。
気を引きたくて必死に考えた末、特注のアナルプラグを尻に突っ込んだまま披露したときのセックスは激しくて、タカヒロは炫から離れていかないと確信した。
でも、心はどうだろう。
優しく甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるが、それは恋愛感情があってのことだろうか。
タカヒロが炫に恋心を抱いているかどうか、炫にはわからなかった。
わからないから、自分の心を曝け出すのが怖い。
勇気が出ない炫は、今日も寝ているタカヒロへ密やかに愛を告げたのだった。
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