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第1話

電子音と共に無機質なATMの画面に映し出された数字は、予想通り……というか、もはや見慣れた“いつもの数字”だった。 はぁ…… 思わず小さな溜め息が漏れる。 耳元で鈍く光るピアスを指で悪戯に弄った。 スプリットタンにする為に、舌ピアスを拡張したい。 その為の太いゲージのピアスも欲しい。 先週見つけたリングも可愛かった。 それに、最近はマグネットジェルに興味がある。 あのキラキラがギュンッと動くのは何度見ても興味深い。 だが、それらが皆、この数字をさらに寂しくする元凶だ。 俺、紺は、自分の美学を追求することに一切の妥協をしない。 この腕や背中に刻まれた刺青も、爪に施した藍色のジェルネイルも、全て俺自身の表現だ。 だが、その追求には、常に現実的な問題が付き纏う。 そう。 つまり、金がない。 『続けてお取引をされますか?』 ATMから、事務的な女声が流れてくる。 続ける金なんてない。 そんなのはこの機械が1番よく知っているはずなのだ。 それに、ここで長々と画面を見つめているのも、性に合わない。 時間は金になる。 する訳ねぇだろ 残高知ってるくせによ 内心チッと舌打ちしたが、そもそも自分の金銭感覚のせいだ。 ATMに八つ当たりしたところで意味はない。 終了のボタンを押してATMとはお別れだ。 「あざーした」 やる気のないバイトの掛け声を背中に、俺はコンビニを出た。 だから図書館へと向かう。 新刊は高い。 物価高だかなんだか知らないが、ハードカバーのこの数年でどんどん値段は吊り上り、スクモの少量パックを優に超した。 だけど、図書館に行けば無料で読める。 そして何より──……

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