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第2話
初夏の風がサワサワと並木道の銀杏の葉を揺らした。
そんな道を歩きながら、耳の装飾──ピアスを外していく。
ラブレットスタット、エキスパンダー。
インダストリアルを飾るストレートバーベルも。
それを1つひとつ、藍染めの小さなポーチへと入れていく。
俺が保育園に通っている時に母さんが縫ってくれた物だ。
丁寧に『こん』と名前の刺繍まで入っている。
そんな幼い時の物をいつまで使うんだ、とも思うが、これは俺にとって意味のあるものだ。
とても大切な。
これは、俺がはじめて染めた布だから。
あの日、父さんと爺ちゃんが誘ってくれていつもは駄目だと言われている藍屋へと足を踏み入れた。
窓が極端に少なく薄暗い空間に、いくつも藍甕が埋め込まれている。
母の後ろから何度も見てきたはずのそこなのに、一足足を踏み入れると色んなものを肌で感じた。
まずは、身体に纏わり付く空気。
藍液の蒸気や水を多く使うから湿度が高い。
それが、肌に張り付いたんだ。
それと同時に、父さんや爺ちゃんからにおっていた甘いのにツンとしたにおい。
所謂、発酵臭だ。
だけど、父さんや爺ちゃんとは違ってどこか爽やかさも感じた。
それがなんだか大人になったみたいで嬉しかったのを今でも覚えている。
染色って言うのは、単なる色付けではない。
藍は本当に生きている。
藍は微生物の力を借りて染料になっているんだ。
藍の葉を微生物が水に溶けるカタチに変化させ、その水溶液で濡らした布を空気に晒すことで、あの夜空のような深淵な藍色を染め上げることが出来る。
『紺のはじめての布だからね。
ポーチにしよっか。
保育園に持っていくカップ入れよう』
『うんっ!
うれしい!』
あれから随分と時間は経ち、経年変化で角の色はより柔らかくなってしまったが今でも現役だ。
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