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第3話

ポーチをポケットへと突っ込むと、パーカーのフードを被る。 それから捲っていた袖を直し、古びた建物へと入った。 自動ドアが開き、涼しい空調がふわりと俺の身体を包んだ。 肌に張り付いていた汗が引いていくような心地良さ。 だけど、手のひらにはじんわりと汗が滲んでいる。 本を傷めないようボトムスに擦り付けた。 まずは、図書フロアの前に設置されている新刊のコーナーだ。 無料で本が読み放題なんて、最高の施設だ。 税金で運営されているから税金の無駄なんて言う奴がいるが、なら利用すれば良いじゃないか。 無料で本で読める。 知識が増える。 ワクワク出来る。 そこに、大人も子供も関係ないんだ。 文字がまだ読めない子供達だって絵で楽しんでいる。 誰もが平等に楽しめるなんて遊園地と対して変わらないじゃないか。 少くとも、俺にとってはこれ以上ないくらい有り難い場所だ。 もちろん、最近は図書館の本をオンラインでも読めるサービスがあることは知っている。 むしろ、家にいながら無料で読めるなんて、金のない俺にとっては最高の利便性だ。 電子書籍リーダーだって持っている。 合理的に考えれば、わざわざ仕事の隙間を見付けてここまで来る必要はないはずなのに。 それでも、足は図書館へと向かう。 ここには、それだけの価値がある。 なのに、気になっていた本は既に貸し出し中だった。 仕方なしに閲覧室へと足を進める。 そして、すぐにカウンターの奥で“いつも”の司書が頭を下げた。 その人に、俺の胸は跳ねた。

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