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第4話
書架の間を歩きながら、棚の隙間から図書館司書を盗み見る。
司書の名前は、結城朔杜。
首からぶら下げているネームホルダーに、そんな綺麗な名前が記載されている。
暑くなってきたからか短く切り揃えられた髪が新鮮だ。
内勤のわりに日に焼けているのは自転車通勤をしているから。
雨の日はバスらしい。
こんな田舎で自転車なんて不便じゃないかとも思うが、案外ケロッとしている。
体力がないタイプではないようだ。
司書が動く度に首筋に筋が浮く。
そこから目が離せなくなる。
はじめて会ったのは2年前。
訛りのない言葉に、都会的な魅力を感じた。
どうやら噂話では、東京からこんな辺鄙な場所へとIターンでやって来たらしい。
とんだ変わり者だ。
なんとなくその程度の認識から、今は随分とカタチがかわってしまった。
……やべ
今日はそんなに時間ねぇんだった
前回借りることが出来なかった本を数冊、それから祖母から頼まれた本を棚から引き抜いていく。
その横で、年配の男性が新聞紙を捲るのに指を舐めていた。
クッソ、萎えんな……
白目を剥きそうになりながらも、時間が気になり足早にカウンターを目指した。
「貸出しをお願いします。
カードです」
「はい。
お預かりします」
静かな空間だから抑えられた音量。
僅かに掠れる語尾がやっぱりエロい。
「あの、新刊のコーナーのこの本っていつ返却日ですか」
「お待ちください」
スマホに表示された本の名前を確認すると、カタカタと打ち込み、パソコンを確認する司書の顔をじっと見る。
装飾のない耳。
白いままの指先。
隠すこともない首筋。
えっろいとこに黒子あんだよなぁ
チラチラ見えんの、スケベ…
「期限は明後日ですね。
その前に返ってくる可能性もありますけど…」
明後日か…
忙しそうだし、無理そうだな
残念だが、仕事は手を抜きたくない。
色は正直だ。
きちんと向き合わなければ、あの深くて美しい色は出てくれない。
夜露に濡れた空の色。
「分かりました。
ありがとうございます」
「新刊は予約出来なくて、すみません。
またお待ちしています」
「いえ。
みんな読みたいですから」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
甘皮部分や爪の際、関節には青がこびり付いている。
いくら洗っても落ちない藍色。
職人として誇らしさを感じる一方、この色が本を汚すのではないかと思われたくない。
服の袖で手を隠しながら本を受け持った。
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