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第1話
彼、「東 圭吾 (あずま けいご)」は今月から会社のひとつのプロジェクトリーダーとして働かなければならなかった。
そのために仕事量が増え、残業、残業、残業…。
独り身の圭吾は帰っても一人だ。
暖かい飯や風呂を準備してくれる者も居ない。
出会いを求めたくとも現在の忙しさでは到底無理だ。
それに圭吾は公にしてないとは言えゲイである。
さらに出会いを求めるのは至難の技と言えるだろう。
ため息を付きながら帰路に着いていると視界の端に誰かが踞っている。
どうしたのだろうと思い声をかけると思いもよらない言葉が返ってきた。
「あれ、東じゃーん。久しぶり、高校卒業して以来だね。」
目の前に居る小綺麗な男を見て東は疲れ果てた脳を働かせる。
こんなチャラそうな奴いただろうか?
居たとしても一軍に変わらないだろうと顔を良く観察すると、無気力そうなタレ目と泣き黒子でようやく思い出した。
彼はたしかに一軍に居たのは変わりないが、生徒会長で頭の固い圭吾や二軍や三軍、男女関係なく話しかける割には聞き上手だった。
「原田 光希(はらだ こうき)」だ。
それにしても随分と格好が変わった。
圭吾の記憶では光希は何に関しても脱力感があり、衣服にもあまりこだわりを見せない雰囲気を纏っていた。
しかし今は女性受けの良さそうな服を着ており、ピアスも高校の頃にはひとつも開けていなかったのが今ではいくつ空いているか分からないほど跡が残っている。
髪の毛も金色に染め上げ、ネオンの光をキラリと反射させていた。
圭吾は光希に話しかける。
「こんなところで何をしてるんだ。腹でも痛いのか?」
「ん~?あぁ~居候してたとこから追い出されちゃったから声かけられるの待ってたんだぁ。いわゆるヒモってやつ~。」
「イェーイ」とダブルピースをする光希に圭吾は頭を抱えた。
かつての想い人がヒモをして生きていたのだから。
はぁ…と出るため息と共に圭吾の腹が大きく鳴った。
音を聞いて光希が話しかけてくる。
「腹減ってんなら俺がなんか作ってやろっか?」
「なんだ、もう居候先を見つけたか。」
「そんなんじゃないって~、ただうまい飯は食いたいだろう?ま、作るだけだから。お家いーれて。」
そして圭吾は渋々光希を連れ、二十四時間スーパーで買い物を済ませた後家へ向かった。
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