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「それで、刺激される匂いというのは⋯⋯?」 今井が訊ねてきた。 言葉を選びながら答えた。 「その、オメガ特有のものではあるのですが、アルファの方の匂いを嗅ぐと、その⋯⋯胸がドキドキするといいますか、安心するような、ずっと匂いを嗅いでいたくなるといいますか、そんな感じになるのです」 「ほぅ、そうなのですか」 「それってつまり、好きってことですか!」 安野が声を上げると、「まぁっ!」と主に江藤の声が大きく上がった。 「いい匂いを嗅ぎますと心が安らぎますけど、そのような感じなのですね」 「好きがそのような形で分かるのは心がときめくものがありますね!」 「姫宮様っ! 私の! 私の匂いはどうでしょうか!」 今井が冷静に、江藤は恋する乙女のように、そして安野は迫ってきた。 そこですかさず小口が「⋯⋯安野さんなんて、オババ臭で嗅いでいられないんじゃないですか」と嘲笑すると、「なんですって!」と睨みつけた。 やだやだとわざとらしく鼻を摘んで手を払う小口に、目を吊り上げて怒っている安野らにいつものことながらけれども、苦笑混じりに事の成り行きを見ていると、ぽすっと大河が抱きついてきた。 「えっ、大河? 急にどうしたの」 内心どきりとしながら身を屈めると、つぶらな瞳が見つめてきた。 「⋯⋯ま、⋯ま⋯⋯」 「うん」 「⋯⋯ま⋯⋯」 小さく呟くように言った我が子は頬擦りした後、顔を埋めた。 安野のことも姫宮のことを取るからとさほど良く思ってないらしく、他のことに気を取られている隙を狙って甘えに来たのかもしれない。 微笑ましげに見つめながらその小さな頭を撫でていると、すうぅ⋯⋯っと吸っているのを感じた。 しかも、長く。

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