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9.
「それにしても大河様がそのようなことをなさるなんて、どこで覚えるんでしょうかね」
「本当に⋯⋯」
外部からの影響は無いはずであるから、テレビからかもしれないが、いやもしかしたら姫宮だからどこでも嗅ぎたいと思ったのかもしれない。
御月堂の服でも彼の存在を感じたい姫宮のように。
「大河、おいで」
両膝を着き、両手を広げた。
すると一目散に大河が駆け寄ってきた。
勢いつけてきた我が子をぎゅっと抱きしめた後、少しばかり離れて目を合わせる。
「大河がママの匂いを嗅いできたのは、ママの話を聞いたからなんだよね。大河にとってママの匂いは安心したり嗅いでいたくなるような匂いってことなのかな。けど、ちょっと、その⋯⋯首はくすぐったいからちょっと止めて欲しいかな。他のところだったら全然いいんだけど」
これで一応言うことを聞いて、他のところにしてくれるかな。
姫宮なりの妥協案を言うと、つぶらな瞳がじっと見つめたまま動かなくなった。
考え込んでいるのか、それともただ見ているだけなのか。
ただ見られているだけでも気恥ずかしく逸らしたくなるが、大河には悪いと思い、そのまま返事を待った。
と、そうしているうちに大河は大きく頷いた。
納得してくれたようだ。
「ありがとう、大河」
微笑みに似た顔を見せて、いい子と頭を撫でた。
すると恥ずかしそうに顔を埋めてしまった。
照れ屋さんで可愛いとくすりと笑った。
周りも微笑ましげな目で見つめていた。
──それ以降、ことあるごとに抱きついてきては、首以外の箇所を嗅ぎに嗅ぎまくったのはまた別の話。
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