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第10話 ザック・オノルタ

 第三兵団というのは、騎士団の中でも平民出身のみが所属する部隊で、国内での地位はそこそこのようだった。    なぜなら平民よりも貴族の血の濃い人間や獣人、魔族の方が魔力が高いからである。  この国での地位は魔力によって決まるようで、騎士団は勿論、魔導士はもっと地位が高いとバリヤは教えてくれた。    では貴族達が前線へ赴けば良いではないかという話なのだが、そこは階級で差別されているらしい。   「そんなっ……人違いで命が危険に晒されるなんて納得できません!というか俺の代わりの勇者、まだ来てないんですか!?」 「まだだ。貴様を召喚してから魔導士たちの魔力が回復したら再度勇者召喚を行うらしいがまだ先の話だ。国王直々の命で貴様の所属が決まり、俺がお前を守らねばならんというのだから諦めろ。今日の実践訓練が終わったら前線へ赴くぞ」 「前線とか、そんな俺にはまだ早いと思うんです!国王に俺を守れって言われてるのに、死んじゃったらどうするんですか!」 「そのときはそのときだ」 「んなバカな!」  完全に他人事である。    そりゃ、魔力の塊であるスライムの兵長は自分が死なないのだから弱者への関心など薄くて当然なのだが、もう少し異世界人への待遇というものがあるだろう。   「守れと言われても、弱すぎれば死ぬものは死ぬし、他に活用ができるかもしれないから保険にしろと言われただけで貴様が一体何の役に立つのか昨日の時点では一切わからなかっただろうが」 「お……仰る通りです」 「こちらの世界に来てから何か異変はないのか」 「異変と言われても……」  目の前の自称スライム曰く魔力量は一般的な騎士程度らしいし、なによりこの世界に来てから大っぴらに話してはいないが過去に2度異世界へ転送されている身としては本当に異世界に招かれやすい体質だから来てしまったのだとしか思えない。特別なことなどあるはずもなかった。    とはいえ、前々回の異世界では魔力量はゼロだと言われていたのに今回は魔力があるようだ。  そこに懸けるしか無いだろうことは薄々感じていた。   「俺の魔力って、他の人と何か違うところは無いんですか?」  唐突な質問に、バリヤは鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情になった。 「魔力に違いも何もあるものか……わかった、聞いてみよう」 「えっ、何にですか」 「俺を拾った魔導士だ」 「魔導士」 「ザック・オノルタ。魔力が強すぎて暴走を起こしそうになっていたところ、俺という受け皿を拾って魔力を俺に分割することで自我を保つことに成功した国宝級魔導士だ」 「国宝級……!?」 「ザックにならわかるかもしれない。奴は魔導士のトップ。実質王室をおいては国のトップに立つ男だ」 「ぜひお願いします!!」  正直なところ、ザックに見てもらって自分に何か特別な力がなかったとしても、実践訓練が先延ばしになるだけでもラッキーだった。  突如舞い降りた幸運に巡は飛びついた。    魔導士たちのいる場所は、召喚された神殿とも、騎士たちの訓練場とも付かず離れずの王宮の傍に佇んでいた。    神殿や訓練場はそのためだけの場所といった佇まいで客間や寮とも離れているのだが、魔導士たちの建物はいくつもの階段やドアがずらりと並んでおり、一つで全てを担う建物となっていた。    バリヤはその内の一つの階段を上り迷いなく歩いていく。  巡もはぐれないように急ぎ足でバリヤへ付いて行った。 「ザック、居るか」 「う~ん……むにゃ……バリヤ?」  本や紙があちこちに積まれ、試験管や何かの装置が所狭しと置かれている部屋の中で黒い影がむくりと起き上がった。

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