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第12話 7歳か200歳か
つい先ほどまで戦闘に混じって死ぬ心配をしなければならなかったのに、次は他人の魔力によって死ぬ心配をしなければならないらしい。
「実は変身魔法はかなりの高等技術で、バリヤは人間に変身するために他人の倍以上の魔力を消費しながら生きているから、そこまで魔力暴走の心配はないんだ。でも僕の魔力を定期的にごっそり受け取らないと行けないし、魔力の自己回復もしてしまうからここ7年の積み重ねで大量に蓄積してしまってるんだよね。
そろそろ別の受け皿を探すか、バリヤのような魔力を貯めることのできる生命体を研究開発しないといけないところだったんだ」
「は、はぁ……そうなんですか。でもミスったら死ぬんですよね?」
「最悪の場合だけだよ。まあまあ、落ち着いて」
これが落ち着いていられるか。
選択肢が生きるか死ぬかではなく死か死の状態である。
「でも、ここ7年はって……その前はどうしてたんですか?」
「その時はまだ僕も魔力をもてあますほど成長しきっていなかったし……バリヤを拾ったのは7年前だから、それ以前は無いよ」
「そうなんですか。ザックさんは一体何歳なんですか?」
「23歳だよ。バリヤは7歳だよ」
「ななさい!?!」
どう見ても7歳の出で立ちではない!
年上の、それも20代後半だと思っていた。
ザックも23歳というにしてはよれよれとくたびれすぎているし、この場で一番年上が自分だとは見た目だけではわからなかった。
「バリヤの見た目は魔法によるものだからね。本来は自我のないスライムだったから、僕が魔力を与えて自我が芽生えたのは7年前。7歳だね」
「7歳……」
確かこのスライム、兵長になったのが6年前だとか抜かしていなかっただろうか。
それではザックに拾われてから、スライムだった期間は(今もスライムなのだろうが)たった1年しかないことになる。
「バケモンじゃん……」
「ん?なんか言った?」
「いえ何も……」
「ただのスライムだった時の記憶はないだろうけど新しい個体でなければ平気で100年や200年生きているだろうから実際の年齢はわからないけどね」
ふり幅が激しすぎる。
7歳か200歳かはふり幅が激しすぎる。
「それでこのことは、引き受けてくれるかな」
「いや引き受けたら死ぬ可能性の方が高いんですよね」
「とはいえ君は異世界人だからね。拒絶反応なんて無いのかもしれない」
「そんなこと言われても、俺の元居た世界には魔法どころか魔力なんて無かったし、どうすればいいのか」
「え!?! 魔法が無かったのかい!? 魔力も!?」
「無かったですけど……」
またしてもザックが喰いついた。
瓶底眼鏡が目と鼻の先まで迫ってくる。
「それじゃあ猶更だよ。魔力の抗体が無ければ拒絶反応が出ないかもしれない。何事も実験だよ!!」
「んなバカな!!」
「ザックは俺という成功例を生み出すまでに何体もスライムを己の魔力で消し去っている。何事も実験だ」
「いいい、いやですよ、俺、死ぬなんて……」
「じゃ、まずは死にはしないけど具合が悪くなる程度で済む方法でやってみようよ」
「え?そんなのあるんですか」
「あるよ」
早くそれを言えよ!!
巡は叫びだしそうになるのをぐっと堪えた。
「じゃあ、はい」
ザックが手を出す。
「……?」
「手、繋いで」
「あ、ハイ」
繋いだ瞬間、ザックの魔力が自分の中に流れ込んでくるのを感じる。
「拒絶反応は感じるかい?」
「いえ……全く」
魔力が全身を巡り、身体に満ちていく。
パッと手を離すと、魔力の供給は止まった。
「もしかしたら君は、僕らのような魔力の高すぎる者の受け皿となって、この世界に魔王やそれに匹敵する魔物が誕生するのを防ぐ役割で召喚されたのかもしれないね」
ザックがしみじみと分析した。
「このことは僕の方から上に報告させていただきたい。そしたら君は、戦地に赴かなくても良くなる可能性もあるよ」
「是非お願いします!!」
他人の魔力を受け入れるだけで戦地に赴かなくても良くなるのなら、報告でもなんでも早くしてほしかった。
「異世界人の体質が分かっただけでも儲けもんなんだ。他人名義で功績をあげられる前に今すぐにでも僕は報告書を作るよ。
拒絶反応が無くてこの世界の平穏のために召喚されたってことだね。
そしたら報告書が出来上がるまで待っててよ。この後の予定は無いだろう?」
実践訓練に連れて行かれるはずだったが今回のことでバリヤはザックの言う通りにするようだった。
何やら書類をごそごそと扱っていたザックが席を立った。
「それじゃあ僕は報告へ行ってくるから、待っててよ。後で別件で頼みたいことがあるんだ」
「わかりました」
「わかった」
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