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第13話 魔石と魔力と相互扶助
ザックが出ていき、バリヤと二人きりになる。
「あのお……今回の報告が認められたら、俺は第三兵団に居なくても良くなるんですかね?」
「そこまではわからない。現状は国王陛下直々に命じられたものだ。それに現状が回避されたとしても、貴様が魔力の受け皿である以上、俺とザックの傍に居なければならないのは変わらない」
「なるほど……この国で魔力が高過ぎるのはザックさんとバリヤさんだけなんですか?」
「正確には、ザック一人だ。俺からザックの魔力を抜くとただの自我のないスライムしか残らない」
「ザックさんて、そんなに凄いんだ」
「ああ」
ザックのおかげで死の危険から逃れられるといっても過言ではない。
今はザックには感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだった。
それに、魔力の受け渡しなどというよくわからない業務をこなすだけでこの世界で生きていけるのであればそれに越したことはない。
「そういえば、魔王や魔王に匹敵する魔物が生まれないように……ってザックさんは仰ってましたけど、この世界には魔王はいないんですか?」
聞き忘れていたことを試しに訊いてみる。
「いない。前回異世界から来た勇者による魔王討伐からここ数十年は、いないはずだ。しかし魔界の瘴気が魔界付近の村だけでなく城下町付近まで迫りくるようになったから、瘴気を消してもらうために勇者召喚は行われた。勇者なら瘴気の浄化など容易いはずだからな」
「それが人違いで、俺が来てしまったと……」
「そういうことだ」
巡は元の世界に置いてきた預金や家族のことを思い馳せた。
元の世界は、日本はどれほど平和で恵まれた環境だっただろうか。
一人暮らしをしていたので家族との接点は少なくなっていたが、それでも家族のいる安心感というのはあった。
そして、仮に元の世界から自分が消えている間、口座引き落としになっている全てのものはいったいどうなっているのかという心配もあった。
失踪事件の上に身元保証人である親に火の粉がかかる可能性大である。
それでも、よりによって魔王が居ない世界へ飛ばされたのは幸運だった。
死ぬ確率は前回や前々回と比べても比にならないほど低いだろう。
前回屋根の瓦礫に巻き込まれて死んだ人間の言えることではないが、飛ばされるにしても平和な国に行けるのが一番だからだ。
ザックは戻ってくると、晴れ晴れしく巡とバリヤに向かって発表した。
「まず、ハツザキメグル、君は世界の保全のために魔力の受け皿として神殿に仕えることになりました。
第三兵団からは脱退です」
「いよっしゃあ!!」
ガッツポーズ。
メグルは小さく声を上げた。
「これからはこの国では一番の魔力を保有する僕の魔力蓄積装置2号としての役割を担うことになる。
そしてここからは別件で、僕個人の依頼だよ」
「ザックさん個人の??」
「そう。僕はバリヤに魔力を蓄積する以外に、魔石になる前の石に自分の魔力を注ぎ込んで自分の魔力を減らしているんだ。
それに使う石を持ってきて欲しいんだよね」
「石を……」
「うん。この世界のひとたちは魔力の受け流しはできるけど、他人の魔力を受け入れることは拒絶反応が出て叶わないって話はさっきもしたよね。そしたら、魔力の高いひとたちはどうして魔力を暴走させず、減らしているのかというと、魔力のない魔石になる前の結晶に魔力を注いで魔石を作っているんだ。
そしてそれを魔力の低い平民たちに売って、平民たちは魔石を魔道具として使うことで生活が成り立っている。
鉱夫が直接掘り出したり、モンスターや魔獣を討伐した時に残る魔石は高くて平民たちは買えないから、魔力の高い者と低い者同士で相互扶助の関係にあるんだ。
でもそのために使う石は、自分で用意しなければならないんだよ。
平民たちが使った後の魔道具としての魔石の殻を貴族や魔導士たちがまた買って、魔力を込める。そういう風に循環しているんだ。」
「なるほどぉ」
「採掘採集は平民の仕事だ。魔導士や貴族の連中は大抵家の者を使って石を集めるか、平民から買い取った石を使う」
「あれ?じゃあザックさんは?」
「僕はバリヤが居るから、家に頼るほどの石は必要ないんだよ。それに魔力の無い魔石なら……」
「ああ」
バリヤが手のひらを下にして、腕を持ち上げた。
ジャラジャラジャラと音を立てて手のひらから石が床に落ちた。
「俺は魔力を食べるときに魔石を喰うから、残った殻はザックにやっている」
「とはいえ魔獣やモンスター討伐に行く時くらいしか魔石を食べることなんてないから、残りの分を二人で採ってきてほしいんだ」
「そういえば昨日のお昼、魔石を食べてましたよね」
ギクッ。バリヤの動きが一時停止する。
「何もないときに魔石を食べたの!?僕の魔力を受け入れるんだから、魔力量が相当減ってからじゃないと食べちゃ駄目じゃないか!」
「すまん。有事と判断してのことだ」
有事とは、食堂の案内の件だろうか。
あのときは巡もまだここまでのことは把握していなかった。そんな事情があったなんて。
「すみません、俺に食事をするところを見せてくれたんです」
「そうだったんだ。まあ良いよ。過ぎたことだし」
「俺が喰う分だけじゃ少し足りない。俺とメグルで採掘に行ってくる」
「その前にメグル、君は神殿に行かないと駄目だ。騎士団の寮が使えなければ神殿の方で暮らすことになる」
「あっ。そうでした」
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