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第14話 ミウェン・ユーバ

 気が付けば夕日が差し込む時間帯になっていた。  昼の鐘は実験と会談に集中しいていて気付かなかった。  昼食を食べ損ねたが、夕食の方は、神殿では第三兵団に配属される前に数日お世話になっていたので食堂より格式ばった食事が取れることをぼんやりと思い出した。 「勇者様の代わりの、この国の平穏を保つために来られた異世界人様。メグル殿とお呼びしても?」 「はい。構いません」  神殿の方では、ザックの報告はすっかり行き渡っているようだった。  巡は魔王や魔物の出現を抑えるための器として、神殿に仕えることになったのだ。  兵団のジャケットから司教服へと着替えを済ませた。  神官の一人が巡に話しかけてきた。 「私、メグル殿の側役となりましたミウェン・ユーバと申します。メグル殿の日程管理等させていただくことになりましたので何かあればいつでもお申し付けください」  ミウェンは両手の袖を前でくっつけ、軽く礼をした。  ザックの報告一つでこんなにも待遇が変わるとは。  第三兵団に入り、バリヤと巡り合わなければこうはならなかっただろう。 「よろしくお願いします。あ、あのお、俺、バリヤさんと魔石を採りにいかないといけないんですが」 「仰せつかっております。私も同行します」 「そ、そうなんですか」  側役とは一体何から何まで面倒を見られるのだろうか。  この世界に来て数日、勇者ではなかったために半ば放置されていた身としては今までの方が気楽ではあった。 「メグル殿の受け皿としての研究のためにザック・オノルタ様の研究に協力することになりました。  当分の予定は研究と、研究の結果次第ではスライムの第三兵団兵長を同行しての他国での受け皿としてのお仕事も入るやもしれません」 「た、他国へ行くんですか!?」 「とはいえアルストリウルスは大陸一の大国です。そのトップのザック様の受け皿でさえあればこの世界の危機は免れるともいえますから、どうなるかはわかりません」 「なるほど……。ここってそんなに大きな国だったんですね」  巡はこの世界に来てから、国の名前程度の話は聞かされていたが(正確には、神官たちの会話を聞いていて勝手に把握した)国のことなど一つも知らなかった。  この世界の地図なども見たことが無かったし、魔法陣に書いてあった文字は勿論、神殿に彫られている文字は読めなかったがなぜか言葉は通じるのでそのままにしていたのだ。  翌日、巡とミウェンは朝の鐘の時刻にバリヤと共に石採掘に行くことになった。  関係ないが、兵長であるバリヤは巡との予定ばかりで第三兵団は大丈夫なのだろうか。 「おはようございます、バリヤさん」 「ああ」  騎士団についてはなんだか平気そうな様子である。  挨拶もそこそこに一行は採掘へと赴くこととなった。  城下町を抜け、下町へと降りていく。 「魔石が採掘できるのは魔界付近の村だ。俺の出身でもある」  え?と巡は耳を疑う。  前線で戦う第三兵団では危ないからザックに世界の平和のための受け皿として報告してもらったのに、魔石の回収のためにもしや前線に赴かなければならないのか?  顔が引きつった巡を見てミウェンが察したのか、 「第三兵団兵長のバリヤ様がご一緒ですから心配いりませんよ」  と励ました。  そりゃバリヤ本体の心配はいらないだろうが、危険なのは巡とミウェンである。 「私は防御魔法が得意ですからお任せください」  危険なのは巡一人らしい。  そもそも元の世界でこの世界の職業に参照できるRPGでは騎士、魔導士、アサシン、弓使いやヒーラーなどの職業が固定化されており、神官のミウェンが何ができるのか巡には予想もつかないのだが、防御魔法は得意らしい。 「あのう、神官の皆さんは普段何をされてるんですか?」 「神殿で浄化の祈りを捧げたり、癒しの魔法で騎士団の兵士たちの回復事業をして回ったりしていますよ」  なるほど、ヒーラーである。 「魔獣やモンスターは俺が狩る。採掘は貴様らに任せる」  採取職は巡に任されたというわけだ。  人数に対して戦闘員が足りない気もするが、二人がこれで十分と言っているので信用してみることにした。

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