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第19話 バリヤの仕事

「ねえメグル、これあげるよ」 「これは?」  唐突に渡されたのは、先日の魔道具の懐中魔法陣のような物だった。   「これは、召喚魔法陣だよ。君が危ないときはこの召喚魔法陣を発動させればきっと君の事を守ってくれる。それこそ、異世界に行ってもね」 「えっ……異世界……」 「そうだよ。巡の話だと、あちこち色んな世界からメグルは呼ばれてしまう体質なんだろう。つまり、いつこの世界からも居なくなるかわからないってことだ。別の世界でも使えるように、背面の魔石には、メグルの魔力を注いでおくといい」 「召喚魔法って……一体誰が召喚されるんですか?」 「バリヤだよ」 「バリヤさん!?」 「この国では君の身を守るのはバリヤの仕事だからね。もし君が別の世界に行ってしまって、身の危険を感じる時が来たら、バリヤを呼ぶといい。僕の魔力がたっぷり詰まった特大魔力のスライムだから、きっと役に立つよ」 「あ、ありがとうございます……でも、ザックさんは魔力暴走を起こさないためにも、バリヤさんが必要なんですよね?」 「そうだね。それに、今の魔力量で言うならメグルにも他の世界に行かずにこの世界に留まって僕の魔力の受け皿をやってほしいところだね。できれば、君が他の世界に行ってしまう前にバリヤを呼んで、どうにか留まってほしいな」 「な、なるほど……」  ジャラリと魔道具のチェーンが揺れる。  巡はザックから召喚魔法の魔道具を受け取った。   「もう一度巡の魔力をきちんと見てみたいから、全身に魔力を巡らせてみてよ」 ザックが言う。 「わかりました。フー……」  全身を巡る魔力を意識して、深呼吸し、数秒間じっと意識する。  巡は他人の魔力など感じ取ることも見ることもできないのだが、ザックは目で魔力を観察しているようだった。   「うーん、特に僕らの魔力と変わったところは無いね。今日分かったことは纏めて上に報告しておくよ。メグルの研究は僕の専売特許なんだから、他の魔導士に誘われても付いて行っちゃ駄目だよ」 「わ、わかりました」  巡の研究というか、異世界人の研究なのだろうが、目の前のエルフの研究意欲は十分に感じ取れたので、一応了解の返事をしておいた。  勇者の召喚の儀式には、魔導士や国王、王子たちなど国のトップが集い、神官も参加することになっていた。  巡は神殿に仕える身であるので、神官たちに混ざって召喚の儀に参加することになった。    魔導士たちは召喚があるのでわかるが、神官たちは一体何をするのかというと召喚が上手くいくように全員で祈りを捧げ、召喚が成功したら召喚された者の身柄を保護するのだという。    そういえば、この世界に召喚されたとき、巡の身柄を攫っていったのは国王でも魔導士でもなく、神官たちだった。  ザックの話によると今回の魔法陣は前回の魔法陣に少し否定文を足しただけとなっているらしいので、召喚が成功するかどうかは微妙な気配がするが、巡も一応神官と混ざって祈りを捧げることにした。

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